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考察『豊臣兄弟!』6話 信長(小栗旬)の心に残る深い傷。兄のために奔走した小一郎(仲野太賀)が最後に示すものとは…

大河ドラマ『豊臣兄弟!』 (NHK/日曜夜8:00〜)は主人公・小一郎(仲野太賀)と兄・藤吉郎(池松壮亮)の兄弟物語。第6回「兄弟の絆(きずな)」では、人質として囚われた藤吉郎の命を救うべく、小一郎が信長(小栗旬)と対峙します。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと絵師・南天さんが考察する連載第6回。

文・ぬえ イラスト・南天 編集・小池貴彦

どうした、信長

『豊臣兄弟!』6話イメージイラスト/かつての弟の裏切りを思う信長(小栗旬)と対峙する、覚悟を決めた小一郎(仲野太賀)/南天
『豊臣兄弟!』6話イメージイラスト/かつての弟の裏切りを思う信長(小栗旬)と対峙する、覚悟を決めた小一郎(仲野太賀)/南天

小一郎(仲野太賀)が乱世を生き延びる男の姿を目の当たりにする第6話。
それは主君・織田信長(小栗旬)の残酷な命令から始まった。

鵜沼城主・大沢次郎左衛門(松尾諭)の従者の荷から毒を塗った小型武器・苦無(くない)が見つかり、信長暗殺の嫌疑がかけられる。小一郎の機転で一日の猶予が与えられたが、次郎左衛門の潔白が証明できなければ

「お前の手で、そやつを斬れ」

次郎左衛門だけでなく、鵜沼城で人質となっている藤吉郎(池松壮亮)の命も小一郎に委ねられる。頭をフル回転させ、奔走する小一郎。
調査を進める中で、苦無を発見したという前田利家(大東駿介)と佐々成政(白洲迅)に話を聞くが、ふたりとも様子がおかしい。
まるで、頭の良い学級委員に理詰めされて逆ギレする脳筋系ヤンチャ生徒のごとし。
本筋から逸れるが、佐々成政は戦国大河ドラマでの登場機会は決して多くない。数えてみれば4人目の貴重な佐々成政である。存分に暴れまわってほしい。

脳筋武将ふたりの挙動不審の理由は、義弟・甚助(前原瑞樹)の証言で明らかになる。
なんと、次郎左衛門の荷物に苦無を忍ばせたのは佐々成政だった──。
小牧山城内で佐々成政を呼び出して確かめようとした小一郎だったが、突如現れた信長から意外な真実を教えられる。

信長は最初から次郎左衛門に濡れ衣を着せ、始末するつもりだったのだ。
味方としても、いずれ寝首をかかれたら…と危惧してしまうほどの手ごわい侍。今のうちに火種を消す目的だ。
兄・藤吉郎を救うため、小一郎は次郎左衛門に二心(ふたごころ)は無いと訴えるが、

信長「サルは死ぬ。そのせいで、おぬしに天運が巡ってきた」「次郎左衛門を斬れ。さすれば藤吉郎に代わり、侍大将にしてやる」「わしへの忠義を示せ」

矛盾している。
斎藤龍興(濱田龍臣)を裏切る次郎左衛門は信用ならない、家臣にできぬと言いながら、出世をぶらさげて小一郎に兄を裏切るよう囁く。兄を裏切る弟を侍大将に取り立てるというのか。
これまで聡慧と描かれてきた信長がどうしたことだ。
何かがおかしいと感じさせる。

小栗旬が魅せる信長の“慟哭”

この疑問には、小一郎がお市(宮﨑あおい)に助けを求める場面で答えが出る。

「信勝兄のことがあってから、兄上は人を信じられなくなったのじゃ」

お市が小一郎に語って聞かせた信長の過去は、本能寺の変に至る物語の底流となるであろうものだ。
これより6年前の永禄元年11月(1558年12月)。弟・信勝の謀反を柴田勝家(山口馬木也)が告げた。当時、柴田勝家は信勝の家臣だった。

勝家「信勝様に謀反の企てがございます」
信長「これで二度目じゃ。一度は許した、次はない」

二度目とは。
一度目の謀反は弘治2年(1556年)。信勝は軍勢を率いて兄・信長に反旗を翻した。兄弟間で合戦が起こったのだ。この時に柴田勝家は弟・信勝勢の一人だった。
稲生の戦いと称されるこの戦は兄・信長の勝利で終結した。母のとりなしもあって信長は弟の降伏を受け入れ、反逆の罪を問わなかった。柴田勝家も含め、信勝の家臣団も許された。これが先述の「一度は許した」の意味である。

信長が織田家の当主となったのは19歳、稲生原の戦い時は信長23歳、信勝20歳。
年若い城主とその弟の周りには、常に火種を作り油を注ぐ者たちがいたのだろう。
本作の勝家は必死に訴える。

「周囲の者がそそのかし、仕向けておりますれば」
「けっして信勝様の御本心では」

二度目の謀反は、稲生原の戦いから2年後のことだ。
織田信長の一代記『信長公記』(太田牛一著・慶長15年/1610年頃成立)では信長は病と称して城にこもり、見舞いに訪れた信勝を謀殺したとされる。

ドラマでの謀殺場面だが、信勝が刃を出して立ち上がってはじめて、柴田勝家が飛び込んで来ている。斬った後に詫びるように伏す、勝家の沈痛な面持ちから想像するに、信長も勝家も信勝を信じていた──。いや、信じたかったのではないだろうか。
だからこそ、倒れた弟を抱きしめて信長は泣く。

「なぜじゃ。なぜじゃ、信勝」

信長の慟哭が空気を震わせる。
それまで堪えていた絶望が極まって噴き出す信長、小栗旬の演技が見る者の胸を締めつけるのだ。

弟を死に追いやった自分。なぜ弟が裏切ったのか、永遠に答えを得られない問い。そのふたつは、信長の心に深い傷を負わせた。
それが「兄を裏切れ、わしへの忠義を示せ」と言わせたのか。
家臣に対する忠義の試し行為が宿痾となっているとすれば、信長にとって命取りだ。

心の傷がもたらすものの先に本能寺の変があると、第6話のこの時点から描こうとしているのではないだろうか。

己の命をかけた申し開き!

これ以上、兄信長を孤独にしたくないとお市に助力を断られた小一郎。
思案の末、肚をくくって申し開きの場に臨む。

家臣団の前で信長が仕掛けた謀略を詳らかにすることはできない。
嫌疑を覆せないなら次郎左衛門を斬れ、侍大将にしてやると刀を投げ渡す信長に、小一郎は抗う。

「そんなものになりたくはありませぬ」「わしはどんなことがあろうとも、兄者は裏切りませぬ」「兄者がわしのことを信じておるからじゃ」

お市から信長の過去は聞いている。だがそれがどうした、わしが守りたいのはわしの兄者だ。4話(記事はこちら)で信長から近習に取り立ててやると言われたのに、兄者に仕えたいと断ったときと同じ。小一郎は変わっていない。
加えて、藤吉郎が信長の思惑を知りながら、それでも信じて鵜沼城に残ったのだと説き

「兄者が殿を裏切ることは金輪際ありませぬ! そういう家臣をあなた様は失うことになりますぞ!」
「わしを侍大将に。ありがたいことじゃ。じゃが、わしは兄者とは違う」
「こたびのことであなた様が大っ嫌いになりました!」
「いつか寝首をかくかもしれませんぞ」

信長の誘い言葉を上書きして、先述の矛盾を突く。
無礼者、乱心者。家臣団の飛び交う叱責も構わず、一歩も退かぬ小一郎は次郎左衛門に刀を渡す。主君を裏切る自分を斬って、信長に忠義を示せと。

突然、場の主導権を渡されて驚く次郎左衛門。受け取った刀を一度は構えたものの捨て

「斬れぬわ」。小一郎から脇差を取り上げて己の髻(まげ)を切り落とす。
「織田様。拙者、仏門に入り、世を捨てまする。家臣、所領の一切も差し出しまする」

所領安堵さえ願い出ず、小一郎を許すよう請うのだった。
小一郎の気迫、次郎左衛門の泰然。
勝負は、ついた。

微笑み交わす夫婦がいい!

信長から許され、急ぎ鵜沼城に戻る小一郎と次郎左衛門一行の場面。
懐から石ころを出して、川に捨てる次郎左衛門。
ここで小一郎は気づく。次郎左衛門は毒を塗った苦無など必要ない侍であることに。
やろうと思えばやれたのだ。
言外に示す次郎左衛門に、乱世を生き抜いてきた武将の凄みを小一郎は見た。

その凄みは、次郎左衛門の出家宣言にも現れている。
髷を切り落とし恭順を示して、ここまでやるならと信長も受け入れざるを得ない状況に持っていった。
が、戦国武将には出家入道したものの寺院に入ることのない、在俗出家が珍しくない。
僧形の戦国武将は武田信玄が有名であるし、ほかでもない、次郎左衛門のかつての主君・斎藤道三(麿赤兒)がそれだ。
髷は捨てても鎧は捨てず。

藤吉郎・小一郎兄弟など、いや信長でさえ、峻烈な世を生き延びてきた男・次郎左衛門の前には、まだまだ甘いと思わせる。
大沢次郎左衛門は『信長公記』など複数の書物に名前があるものの織田信長に仕えた形跡がなく、本能寺の変の後に羽柴秀吉に仕え、関ヶ原合戦(慶長5年/1600年)に参戦したという説もある謎多き武将だ。その描き方として、実に戦国的であった。

城に戻り、妻・篠(映美くらら)と微笑み交わす場面がいいんだよねえ!
いままでも数多の戦場から戻ってくるたびに、こうだったのだろうなと想像させるのだ。

ちょっと可愛い柴田勝家

力が抜けたように寛ぐ信長に、お市が瓜の薄切りを出す場面。

信長「もしかしたら見てみたかったのやもしれぬ」
お市「弟が命懸けで兄を守ろうとする姿をですか?」
信長「いや。兄を見殺しにして、のしあがろうとする姿をじゃ」

期待外れにございましたなと冗談めかして笑う兄妹。
兄が孤独の奥底に落ちてゆかぬよう手を握り続ける妹、お市が傍にいる間は信長は大丈夫なのだろうなと感じさせる。
ここで信長に召し出され、犬山城攻略を命じられた柴田勝家。命を受けて退出すると思いきや、戻ってきてためらいがちに

「……拙者がおりまする」
「拙者は、けっして殿を裏切りませぬ!」

信勝が死んだ夜に信長の嘆きを見た唯一の男。
小一郎に兄を裏切れと迫った主君が抱く闇を知る男。
言ったはいいが照れくさくなり足音高く去る勝家、去り際にチラリとお市を見やっていた。

史実の行き先を思えば、3人の並んだ姿が切ない。どうか物語の中では、少しでも長くこの穏やかさが保たれてほしいと願わずにはいられない。
無駄とはわかっているが、そこをなんとか。

藤吉郎のプロポーズ

帰還して寧々(浜辺美波)に素直に求婚できた藤吉郎と、それに応じる寧々。
大喜びする木下家。
緊張が解れた明るい場面で締められるラストにホッとする。
おめでとう、藤吉郎。寧々。天下取りへと駆け上がる夫婦の誕生だ。

今回、小一郎は大沢次郎左衛門から学んだ。生き残る術は一つではない。
守るために退くこともまた、侍として取るべき道である。

次回予告。伝説の墨俣一夜城。蜂須賀小六、いや蜂須賀正勝(高橋努)登場。安藤守就(田中哲司)筆頭の美濃三人衆、みんな顔が怖い。
直、倒れる! 大河に登場する架空の人物はいつどうなるかわからない。が、最終回まで普通に生きてる可能性もあるからきっと大丈夫!
第7話が楽しみですね。

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NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』

公式サイト

【作】八津弘幸
【音楽】木村秀彬
【語り】安藤サクラ
【出演】仲野太賀、池松壮亮、吉岡里帆、浜辺美波、白石 聖、坂井真紀、宮澤エマ、大東駿介、松下洸平、山口馬木也、宮﨑あおい、小栗 旬 ほか
【時代考証】黒田基樹、柴 裕之
【制作統括】松川博敬、堀内裕介
【プロデューサー】高橋優香子、舟橋哲男、吉岡和彦(展開・プロモーション)、国友 茜(広報)
【演出】渡邊良雄、渡辺哲也、田中 正

※このレビューは、ドラマの設定をもとに記述しています。

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主な参考文献:
谷口克弘(著)『織田信長合戦全録──桶狭間から本能寺まで』中公新書,2002年.
太田牛一(著)/中川太古(現代語訳・注)『現代語訳 信長公記』新人物文庫, 2013年.
和田裕弘(著)『織田信長の家臣団──派閥と人間関係』中公新書,2017年.
永原慶二(著)/本郷和人(解説)『戦国時代』講談社学術文庫, 2019年.
樋口隆晴(監修)『イラストでわかる武士の装束』玄光社,2021年.
黒田基樹『羽柴秀吉とその一族――秀吉の出自から秀長の家族まで』角川選書, 2025年.
柴裕之『羽柴秀長――秀吉の天下を支えた弟』角川選書, 2025年.
黒田基樹『羽柴秀長の生涯――秀吉を支えた補佐役の実像』平凡社新書, 2025年.
黒田基樹・柴裕之〔編〕『羽柴秀長文書集』東京堂出版, 2025年.
桑田忠親(著)『豊臣秀吉研究 上・下』角川選書.2025年.
『豊臣兄弟!』1話イメージイラスト/帰郷した兄・藤吉郎が弟・小一郎を織田家家臣に誘った第1話。柴田勝家に迫られ、藤吉郎が啖呵をきる/南天
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『豊臣兄弟!』2話イメージイラスト/小一郎の住む尾張国中村を悲劇が襲った第2話。しかし、それが出立の転機となる…/南天
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『豊臣兄弟!』3話イメージイラスト/小一郎(仲野太賀)による和睦の提案は織田信長(小栗旬)に「言葉が軽い」と一蹴される/南天
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『豊臣兄弟!』4話イメージイラスト/合戦を終えた織田信長(小栗旬)。兄弟もまた大きな一歩を刻む。/南天
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『豊臣兄弟!』5話イメージイラスト/鵜沼城の主・大沢次郎左衛門(松尾諭)と妻・篠(映美くらら)の美しい夫婦愛が描かれた/南天
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『豊臣兄弟!』6話イメージイラスト/かつての弟の裏切りを思う信長(小栗旬)と対峙する、覚悟を決めた小一郎(仲野太賀)/南天
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『豊臣兄弟!』1話イメージイラスト/帰郷した兄・藤吉郎が弟・小一郎を織田家家臣に誘った第1話。柴田勝家に迫られ、藤吉郎が啖呵をきる/南天
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