生涯自分らしく過ごすため、50歳からの後悔しない家選び
撮影・黒川ひろみ 文・恒木綾子
建築デザイナー(64歳)
1996年、湘南エリアを中心にナチュラルな家づくりを手掛ける「パパスホーム」を設立。代表を退いた後はフリーの建築デザイナーとして活躍中。https://shinobuide.com
掃除の手間とコストが減ったコンパクトな平屋の“終の棲家”
眼下に海が広がる神奈川・鎌倉の自然豊かな丘の上。井手しのぶさんが、自ら設計したひとり暮らし用の一軒家をここに建てたのは、今から約10年前。
「住んでいた家を売却し、この家の費用を差し引いた余剰金を老後の資金に充てることが目的だったので、こだわったのはコストを抑えること。土地は格安でしたし、建築費も自分の会社で建てたので資材費のみで済みました」
建物を平屋にしたのは土地との相性を考慮した結果だが、住み始めてからさまざまなメリットを感じるように。
「まず、掃除がとにかくラク。視覚的な広がりを持たせるために庭とひと続きの設計で、家の中も段差はほとんどなし。床もモルタルなので、ほうきでさっと掃き出すだけ。掃除機はほぼ使いません。それから、前の家は3階建てで坪数も多く、床暖房も入れていたので、電気代とガス代合わせて月3万円ほど。それが今の家だと高くても1万円。家をコンパクトにしたことで、ランニングコストも安くなりました」
近くに頼れる友だちがいる住み慣れた環境も大切
実は井手さんのマイホームは、この家が7軒目。年齢を重ねるにつれ、家選びの条件も大きく変わったという。
「若い頃は毎日仕事もしていたし、家に人を招くことも多かったので、利便性が絶対条件でした。でもここは引退後の家なので、静かな住環境を重視。駅から距離があるぶん静かだし、近くにバス停もあるし、今はネットで頼めば物が届くので不便さは感じません」
しかし先日、鎌倉から20kmほど離れた大磯で建築欲を掻き立てられる土地と出合い、住み替えを考えたそう。紆余曲折あってその計画は頓挫したが、「結果的にそれでよかった」と笑う。
「魅力的だったんだけど、そこは再建築不可の傾斜地で、資産価値的にも自分が死んだ後の処分のことを考えても大変だなと。何より鎌倉はもう10年住んでいるので、通い慣れた病院やスイミングスクールもあれば、友だちもいっぱいいるし、ご近所付き合いもある。助け合える人がそばにいるのは何かあった時に安心だなと改めて思いました」
今は「この家に死ぬまで住むつもり」と井手さん。好みが変わった部分はリフォームで修正していく予定だ。
「最近は日当たりが良すぎることに疲れが出てきて、もう少し影を作るために軒を延ばすリフォームと、壁の塗り替えを考えているところ。長く住んでいれば好みが変わるのは当然だし、リフォームをすることで気分も変わる。だからどんどんやったほうがいいと思います。私も大磯への住み替えを諦めたぶん(笑)、この家を本当の終の棲家として少しずつ整えていく予定です」
井手さん・住まいの変遷
綾瀬
25歳。湘南の建て売りをリフォーム。
長後
建築条件付き30坪の土地に2階建て一軒家を建てる。5年住む。
鵠沼
58坪の土地に2階建て一軒家。1996年、事務所設立。しかし住環境が嫌になり、ここは売らずに箱根に別荘を作る。
箱根
38歳。仙石原の300坪の土地に豪華な別荘を建てる。離婚後、手放す。
鎌倉山
43歳。鵠沼は職場があって落ち着かなかったこともあり、友人の古家を買ってリノベーション。その後、何度かリフォームをする。
葉山
長者ヶ崎海岸に面した3階建ての一軒家。鎌倉山の家を売り、30坪の土地を買って建てた。が、台風と塩害に悩まされ、山に住みたい願望が出てきたため、売却。
材木座
現在の平家の自宅。80坪の土地を購入し、大きな庭の小さな家を建てる。
『クロワッサン』1158号より
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