『しっぽのカルテ』村山由佳 著──森の中の動物病院の人間&動物模様
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
これまで「生まれ変わったら何になりたいか」という凡庸な質問を投げかけられたら、おざなりに「猫」と答えていた。ここ数年、自分から積極的に「私は生まれ変わったら村山由佳さん宅の猫になりたい」と言っている。村山さんのSNSを見れば、猫たちがどんなに愛され幸福そうか、一瞬で分かるはず。ちなみに軽井沢にあるお家もとっても素敵そうである。
なので村山さんが書いた動物病院の小説となれば読むに決まっているわけです。信州の自然の中にある「エルザ動物クリニック」には、ぶっきらぼうだけど腕はよい獣医師、二人の看護師、受付兼事務担当という四人の女性がいる。母猫が死んで瀕死の子猫、怪我で足を切断せざるをえなくなった犬、飼い主が病を抱えた高齢犬、いびつな関係の夫婦と暮らすインコ……。かかわる人間たちの人生模様を浮かび上がらせながら、動物と一緒に暮らすことの喜びや責任、看取ることの葛藤や決断など、命と向き合うという真摯なテーマが浮かび上がる。動物が人間に都合のよい存在として描かれていないところが魅力。また、受付・事務担当の深雪の目を通して、職場の人間関係や、彼女の再生と成長と恋が描かれるのも読みどころ。
『クロワッサン』1158号より
広告