作家、書評家・渡辺祐真さんの、今年心に刺さった本セレクション──時代を鋭くとらえた点にも注目したい
優れた物語に触れる時間は、せわしない日常を忘れさせてくれるもの。キャリアを積んだ作家たちの大作が目立った2025年。作家、書評家・渡辺祐真さんが選んだ作品は?
文・小沢緑子
今年はキャリアを積んだ作家たちの大作が目立った、と渡辺祐真さん。「共通するテーマがジェンダー、フェミニズム、暴力、信仰、連帯、対話。そのすべてをK-POPアイドルを目指す主人公を通して描いた『アカシアの朝』。熾烈なアイドルのリアルが迫力満点。さらに在日韓国人の今日のリアルにも迫っています」。『会話の0.2秒を言語学する』は、「人気YouTube番組『ゆる言語学ラジオ』でスピーカーを務める著者。言語学の知見を面白く解き明かす見事な言語学本ですが、それ以上に社会的メッセージも鋭い」。『書物の時代』は、「書物や歴史の見え方が変わる一冊。今年の大河ドラマは書物の出版と流通の立役者である蔦屋重三郎が主人公ですが、彼をより大きな視野でとらえることもできます」。
『アカシアの朝』
櫻木みわ 著
「韓国アイドルや日韓の近現代史をポップかつシリアスに描いた大作。歴史的な視点も徹底し、加えてエンターテインメントとしても完成度が高いです」。小学館 2,200円
『会話の0.2秒を言語学する』
水野太貴 著
会話で返事するまで平均0.2秒。この一瞬にどんな駆け引きや奇跡が起きているのか。言語学の魅力をオタク目線で伝える。うまく話せないと悩む人にも。新潮社 1,760円
『書物の時代』
若尾政希 著
読書が人の生き方、社会、政治を変えてきた。書物史研究をリードする著者による一冊で、「現代の情報爆発について、歴史的に俯瞰するのにもうってつけ」。岩波書店 3,960円
『クロワッサン』1155号より
広告