【俳優・森 七菜さんに聞いた】一日の終わりに浸りたい、優しさ溢れる平屋暮らし──ドラマ『ひらやすみ』
撮影・シム・ギュテ 文・兵藤育子
NHKで放送中の夜ドラ『ひらやすみ』は、一日の終わりに見るのがクセになる、心をほぐしてくれるドラマだ。出演している森七菜さんは原作漫画のファンだったそう。
「ゆったりとした時間の流れと、背伸びしていない感じが馴染みやすく、悪い人がひとりも出てこないんです。職業病かもしれないですけど、面白い漫画を読むと『自分が演じるなら』とつい想像してしまうのですが、本当に“なっちゃん”役のオファーをいただいたときはびっくりしました」
舞台は都会らしからぬのんびりとした空気の漂う、阿佐ケ谷。フリーターの生田ヒロトは、生前、仲良くしていたという理由だけで、年季の入った一戸建ての平屋を老女から譲り受ける。そこで同居を始めるのが、森さん演じる小林なつみ。美大進学のため山形から上京したのだが、大学に馴染めないうえ、11歳上ののんきないとことの暮らしは、憧れていた東京ライフとかけ離れている──。高校生のときに仕事で大分から上京した森さんは、なつみの抱えるもやもやにシンパシーを感じたようだ。
「東京の人たちが輝いて見えて、最初は友だちも作りにくかったし、どっちの人間にもなりきれないような宙ぶらりんな気持ちでした」
自意識過剰ななつみは、周りを気にしすぎて思うように行動できないのだが、そのくすぶりを全身で表現する森さんの演技が実にコミカル。大抵ムスッとしているのに、なんとも憎めないキャラクターなのだ。
「原作のなつみは感情の起伏が大きいので、それをきちんと表現しなければという使命感がありました。といっても、狙って笑わせるようなことはしたくなくて、よくわかんないけど変になっちゃうときってあるよねっていう感覚を大事にしたくて。なつみくらい、何をしても許してもらえる人物を演じられる機会はなかなかないので、楽しかったです」
思春期から抜け切っていないなつみを、岡山天音さん演じるヒロトがおおらかに受け止めるのだが、恋人でも家族でもない関係性が生み出す、独特の距離感が魅力のひとつ。森さんにとって岡山さんは「芸能界の先輩で一番話しやすかった」そうで、それも演技に反映されているはず。
「安心感があって聞き上手なんです。私ばかり気持ちよくしゃべっちゃって、岡山さんのことをあまり知ることができなかった気がして(笑)。“ヒロ兄”と一緒だなあと思いました」
向かい合って食べる手作りごはんや、縁側でぼんやり過ごすひとときなど、心に余裕がなければ味わえないような温かさがちりばめられている本作。かけがえのない時間とは、こういうことを言うのだろう。
『ひらやすみ』
原作漫画の魅力的なキャラクター、前の家主が見守っているかのような穏やかな平屋暮らしを実写化。
出演:岡山天音、森七菜/吉岡里帆、根岸季衣
ナレーション:小林聡美
脚本:米内山陽子
NHK総合にて毎週月~木曜22時45分~23時(全20回)放送中。NHK ONEで同時配信・見逃し配信も。
『クロワッサン』1153号より
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