『殺し屋の営業術』野宮 有 著──孤独な商談の天才が裏社会で案ずる一計
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
第71回江戸川乱歩賞受賞作。主人公は、何度も社内表彰されるくらい凄腕の営業マン、鳥井一樹。営業の才能と努力を厭わない性格の結果そうなっただけで、本人は仕事にやりがいや達成感を感じたことはない。趣味も夢もなく、ただただ人生が虚しいと感じているのが鳥井という男だ。そんな彼の人生が一変する出来事が起きる。
ある日、深夜のアポイントを求めてきた顧客の家を訪れると、そこには刺殺体と殺し屋が。
口封じのために殺されそうになった鳥井は、必死で殺し屋を説得しはじめる。いや、説得ではなく商談だ。殺し屋業界にもノルマがあると知った彼は、自分を営業として雇えばノルマ達成させてみせると、夢中で自分を売り込む。かくして彼は命乞いに成功する。しかし二週間で二億を稼げねば、命は保証されない。
殺し屋の営業、というのがなんとも可笑しい。「殺したい人はいませんか? 消してさしあげます」なんて聞いてまわるわけにはいかない。どんな商品も言葉巧みに売ってきた鳥井の策略、覚醒、ライバルの登場……。予想外のことが次々起きて、緊張感を高めていく展開が絶妙。最後の鳥井の一言、格好よすぎます。
『クロワッサン』1153号より
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