払い続けている保険の見直し & 知っているようで知らない、保険の基本
イラストレーション・せいのみわお 文・黒澤 彩
「保険についてこんな勘違いをしていませんか?」
■元が取れればOK。
■老後の備えに必須。
■途中で解約したら損。
■投資よりも安全。
入院に、老後に、介護に、葬儀代……。人生に起こるあれやこれやに保険で備えようとすれば、保険料は膨らむばかり。見直しの節約効果は絶大だ。
「若い子育て中の世帯を除けば、ほとんどの人にとって保険は不要です」と断言するのは、保険業界で15年ほどの営業経験もある後田亨さん。多くの人が根本的な勘違いをしているという。
「保険の本質は“共助”、助け合いの仕組みです。みんなが保険料を払い、不幸が起きた人に対してお金が使われ、無事だった人にはお金は戻りません」
一方で、お金を貯めたり、増やしたりするのは“自助”。そもそもの目的がまったく異なり、言い方を変えれば、保険という仕組みのいいところを活かすことができない。
「つまり、“元を取る”ためのものであるはずがないのです。貯蓄性商品でも、手数料が高いので、相対的にリターンは少なくなります。損得で考えること自体おかしな話ですが、もし損をしたくないならば保険に入らないのがいちばん。中途解約するのもありです」
また、不安/安心といった心の問題から保険を検討しがちなのも私たち消費者の弱点だ。「意外に常識で判断できることもあります」と後田さん。思い込みを解きほぐしていこう。
知っているようで知らない、保険の基本
保険は不測の事態に“だけ”備えるもの
「もっとも基本的なこととして、保険は、自分ではとても払うことができないくらいの大金が必要になる緊急事態に対して備えるものです」(後田さん)
数千万円、数億円といった金額が明日、突然必要になるかもしれない。滅多に起こらないことだけれど、もしそうなったらとてつもなく困るので、仕方なく月々いくらかの保険料を払っておく、というのが本来の使い方。
「老後資金や教育費などは明らかに必要だとわかっているお金で、スケジュールも見えています。それってリスクでもなんでもないですよね。冒頭に説明したように、貯蓄や運用は自助なので、保険とは無関係です」
保険は大きなリスクに備えるものであって、よくある出来事や将来のためのお金を準備する手段ではない。この前提に立てば、不要な保険があぶり出される!
私たちはすでに終身保険に入っている
そうはいっても、保険に何も入らなくていいの? と思った人も心配ご無用。私たちは、社会保険という終身保険に入っている。
「会社員なら勤務先の健康保険、自営業なら国民健康保険に全員が入って、保険料を払っていますよね。国の医療保険制度はとても充実しています。現役世代の自己負担額は3割。さらに高額療養費制度で負担額の上限が決められているので、払えないほど多額の費用がかかることはないのです」
例えば医療費が100万円の場合、世帯年収が370万〜770万円なら自己負担額の上限はひと月8万7430円で、年収770万〜1160万円なら17万1820円。勤務先によっては給付が上乗せされ、さらに負担が減ることも。
「介護保険も同じです。40歳以上の人はみんな国の終身介護保険に入っているのだから、民間の保険が必須とはなりません」
保険料には謎の手数料が含まれている
民間の保険はあくまでも商品なので、買うときには「自分は何にお金を払うのか」を知りたい。
「ところが、保険料の内訳はとても不透明で、手数料が何パーセントなのか公表されていません」
投資信託などほとんどの金融商品の手数料は明らかにされているのに、保険はなぜか非開示。
「詳細はわからなくても、集めたお金から経費を使い、なおかつ保険会社や代理店の儲けを残すのだから、かなりの手数料が引かれていると想像はつきます。“元を取れない”のは、そのためです」
以前、某ネット保険会社が粗利率を公表したことがあるそうで、その割合は、なんと44〜46%。保険料が1万円とすると、そのうち4,500円ほどを保険会社に手数料として支払っていることになる。
「なかなかの額ですよね。『手数料がわからないものは買わない』という姿勢が大切です」
高齢期の人と保険の相性はよくない
年齢などその時々でお金の使い道は変わるものだが、お金はお金。用途別に準備しようとするのが間違いのもとだという。
「年齢やライフステージに応じて必要な保険があるというのは、売り手が考えたストーリーにすぎません。本来、保険とはお金だけの問題。自己資金が積み上がってくれば、支払えるお金も増えるので、保険はますます必要なくなります。50代以上の高齢期の人と保険との相性はとても悪いのです」
医療保険も死亡保険も、高齢になるほど給付率が上がるので、保険料は割高になる。少しの保険料で大きな保障を得るという保険のメリットがないのだ。
「別の視点でいうと、80代以上の高齢になったときに、自分で給付の申請ができますか? というところ。高齢期にはできるだけお金の管理をシンプルにして、契約は少ないほどいいと思います」
入ったほうがいい保険とは?
保険と名のつくものは全部いらないわけではない。「自分では払うことのできない大きなお金が必要になるとき」という鉄則から考えれば、必要な保険もわかる。例えば、他人に損害を与えてしまったときは、ケースによって億単位のお金を払わなければならず、そのための賠償責任保険、自動車保険の自賠責保険などは必須。ほかにも、住居の火災保険、海外旅行保険などは緊急時に多額のお金がかかる可能性があるので入っておきたい。
『クロワッサン』1146号より
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