【俳優・麻生久美子さんに聞いた】想像力&創造力を刺激する海辺の町のから騒ぎ──映画『海辺へ行く道』
撮影・シム・ギュテ スタイリング・井阪 恵 ヘア&メイク・ナライユミ 文・兵藤育子
出演作を検討する際に麻生久美子さんが大事にしているのは、「誰と仕事をしたいか」。本作は『ウルトラミラクルラブストーリー』『俳優亀岡拓次』など、予測不能な世界観が持ち味の横浜聡子さんが監督を務めているのだが、麻生さんはその両作にヒロインとして出演している。
「横浜さんとお仕事ができるなら、どんな役でもいいんです。今回も脚本を読む前に即決しました(笑)」
『海辺へ行く道』の舞台は、アーティストの移住支援をうたう、とある海辺の町。14歳の美術部員・奏介は夏休みにもかかわらず、仲間とともに毎日忙しく動き回っている。麻生さんが演じるのは、その奏介と一緒に暮らしている女性。普通に考えたら親子なのだろうが、関係性について作中では特に言及されていない。一事が万事そんな感じで、「この人は一体何者なのか」「なぜそんな行動を取っているのか」など、ほとんど説明がなされないまま、次々と登場人物が入れ替わり、物語が進んでいく。観る側は煙に巻かれつつ、摩訶不思議な展開にのめり込んでしまう。これぞ“横浜ワールド”だ。
「現場で多くを演出するタイプの監督ではありませんが、『小出しにしてすいません』って不意に言ってくださることが絶妙なんです。たとえば奏介とのあるシーンで、『このまま会えないかもしれないっていうような、幽霊みたいに消えそうな感じで演じてほしい』と言われて。脚本にそんなことは一切書かれていないですし、私の中にそういう気持ちが少しあればいいってことなのでしょうけど、それによって芝居ってすごく変わるじゃないですか。想像していない角度から毎回ヒントをいただけるので、発見が多いんですよね」
純粋にものづくりを楽しんでいる子どもたちとは対照的に、アートという蜜に群がってくる大人たちがいちいち怪しいのも見どころ。町おこしやビジネスの道具として、アートが胡散臭いものに転じる危うさを、シニカルかつ滑稽に描いている。
「横浜さんは、子どもの心を持ったまま大人になっている気がするんです。だから監督の目を通すと、大人ってこんなに怪しく見えるんだっていうのも面白くて。好きなシーンがいっぱいあるんですけど、試写室で私だけ何度も噴き出しちゃって、どうしてみんな我慢できるの!? って思いました(笑)。大人だけでなく、うちの子どもも楽しめる作品だと思うし、それこそアートみたいに自由に解釈できるのがいいですよね」
瀬戸内国際芸術祭2025にも、映画作品として初参加している本作。アートの懐の深さを感じさせてくれる、眩しくて怪しい、稀有な映画だ。
『海辺へ行く道』
孤高の漫画家・三好銀による晩年の傑作シリーズを映画化。ものづくりに夢中な子どもたちと、訳ありな大人たちのひと夏の物語。小豆島でオールロケを実施。
出演:原田琥之佑、麻生久美子、高良健吾、唐田えりか、剛力彩芽、菅原小春ほか
8月29日(金)より、東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開。
『クロワッサン』1147号より
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