【浮世絵を手がかりに巡る風景】三囲神社、湯島天満宮──庶民が深く馴染んだ、神社の景色
浮世絵を手がかりに、小説家・梶よう子さんと太田記念美術館 上席学芸員・渡邉 晃さんが巡る風景。今回は、墨田区向島にある三囲神社と、文京区湯島にある湯島天満宮、2つの神社を訪ねた。
撮影・青木和義 文・嶌 陽子 構成・中條裕子
浮世絵好きで、絵師や摺師を題材にした作品をたびたび発表している小説家の梶よう子さん。そこで今回、浮世絵に描かれた風景に出合う散歩に出かけることに。案内役は浮世絵専門の美術館、太田記念美術館の学芸員である渡邉晃さんだ。
「当時の神社仏閣も出店が並び、女性や子どもも楽しめる場所だったはず」(梶さん)
「庶民が日帰り旅行のような感覚で遊びに行っていたのでしょう」(渡邉さん)
神仏が宿るパワースポットの人気は、今も昔も変わらない。
二代 歌川広重「東都三十六景 隅田川三囲り堤」
三囲神社(墨田区向島)
堤に立つと上半分だけが見える鳥居は、今でも健在
隅田川東岸の堤近くにある三囲神社は堤よりも低い位置にあり、現在も鳥居が上半分しか見えない。「この構図がおもしろいため、さまざまな浮世絵に描かれています」(渡邉さん)。「中央にいるのは芸者と若旦那、太鼓持ちでしょうか? 奥に茶店の小屋らしきものも見える。春は堤沿いの桜もきれいだったでしょうね」(梶さん)
歌川広重「名所江戸百景 湯しま天神坂上眺望」
湯島天満宮(文京区湯島)
女坂を上りきった場所からは不忍池が望めた
高台に立つ湯島天神。右手に傾斜が急な男坂の石段が見える。「緩やかな女坂を上った場所から見た風景で、遠くに不忍池と弁天堂が見えます。学問の神様を祀る神社として有名ですが、当時は芝居や富くじも行われる遊興地でもありました」(渡邉さん)。不忍池が描かれていたところは現在高い建物に遮られている。
『クロワッサン』1145号より
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