『ちぐはぐなディナー』セシル・トリリ 著 加藤かおり 訳──夫婦二組の食事会の予想外の顛末とは
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
読みながら、舞台「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」や映画「おとなのけんか」(原作は戯曲)を思い出した。ともに二組の夫婦の会話が意外な方向へ転がるワンシチュエーションものだ。
舞台はパリの高級アパルトマン。弁護士のエティエンヌと従順な妻クローディアは、夫の友人レミとその妻ジョアルをディナーに招く。エティエンヌは仕事でくすぶっており、ジョアルに取り入るのが目的だ。というのもジョアルは合併計画が進行中の大手ハイテク企業の幹部で、法律顧問の選定に権限を持っているのである。
食事開始の時点では、妻二人にはみなに打ち明けていないことがある。ジョアルは直前にCEO就任を打診される電話を受けて返事を保留中。クローディアもあることを夫に打ち明ける機会を待っている。ちなみに教師のレミには隠し事があり、そしてエティエンヌはただひたすらモラハラ夫。物語は四人の視点を行き来しながら、二転三転する状況を描き出す。
タイトル通り、なんともちぐはぐな四人だが、やがてこの食事の席が彼らの大きな転機となる。人生が変わる時って、あっという間だなあ。自分の道を切り開いた登場人物に、エールを送りたい。
『クロワッサン』1142号より
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