世界を舞台にあの男が"究極のスープ"探しへ。俳優・松重 豊さんインタビュー
撮影・高野友也 スタイリング・増井芳江 ヘア&メイク・高橋郁美 文・一寸木芳枝
来月に公開を控える『劇映画 孤独のグルメ』に登場する1食目は、なんと機内食。通常であれば描かれないであろう「ビーフorチキン」で悩むシーンさえ成立してしまうのは、松重豊さん演じる井之頭五郎のキャラクターあってこそだろう。
「俳優部の人間としてこの世界にしがみついてきて約40年。ようやく主役を任される作品に出合えたと思ったら、テレビ東京の深夜でメシを食うだけのドラマでしょ。それも気が付けば10年続いて、ここ最近ではアジア各国の人たちまで面白いって言ってくれるようになって。ただ、いまだに役者として一番評価されたのがただメシ食っているだけの作品っていうのは、自分の中で納得している部分と腑に落ちない部分、両方が共存してますよ(笑)」
今回、松重さんは主演だけでなく、監督、脚本も担当。1人3役を務めた。各役割を自己採点してもらうと……。
「役者としての自分には何も期待してないので、まぁ平均点。でも監督と脚本に関しては、今自分ができることは全て出し切りました。俳優の皆さんにもきちんと事務所を通して台本を渡してオファーして。引き受けてもらえるか、その答えを聞くまではラブレターの返事が来るのをドキドキ、ビクビクしながら待つような気分でしたね。でも皆さん、快諾してくださって。自分が書いたセリフを意中の俳優が中身のある言葉にしてくれる。こんなうれしいことはないですよ。彼らのおかげで、僕が想像した以上の映画作品になったという感じはあります。だから一切、ああすればよかった、というのはない。監督、脚本に関しては100点満点。あとはお客さんが見て判断してほしい。〝つまんねぇよ〟って言われたら、僕に才能がなかっただけのこと。映画が当たらなかったら、井之頭五郎は引退。〝へへっ〟って笑いながら、次の仕事を探しますよ」
五郎が〝究極のスープ〟を探してフランス、韓国、日本を走り回る物語は、公開に先駆けて上映された釜山国際映画祭で大きな拍手が送られ、何度も笑いが起こったという。
「僕も劇場内にいたんですけど、お客さんの反応、笑う瞬間というのを生で確認できた時はホッとしました。特に笑うか笑わないかって紙一重の部分だから。監督として一番こだわったのも〝間〟だったんです。コンマ1秒早くても長くても爆笑は引き出せない。もう極限まで計算して突き詰めた甲斐がありました」
観賞の際は、くれぐれもお腹を空かせた状態で行かないことをおすすめする。そして、物語の最後に松重さんが仕掛けたサプライズもお楽しみに。
『劇映画 孤独のグルメ』
シーズン10がテレビ放送中の人気グルメドキュメンタリードラマが初の映画化。原作:『孤独のグルメ』(作・久住昌之、画・谷口ジロー)
監督:松重 豊 脚本:松重 豊、田口佳宏 出演:松重 豊、内田有紀、磯村勇斗、村田雄浩、杏、オダギリジョーほか
2025年1月10日(金)より、東京・TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開。
ジャケット6万8200円、シャツ4万7300円、ハイネックカットソー2万5300円、パンツ3万6300円(以上suzuki takayuki TEL.03・6821・6701)、メガネ 参考商品(武田メガネ TEL.092・781・6111)
『クロワッサン』1132号より
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