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初期衝動とともに未来へ、"演劇"を伝えていく。Stage『鶴人』

撮影・相馬ミナ 文・大池明日香

初期衝動とともに未来へ、 "演劇"を伝えていく。

八嶋智人(やしま・のりと)さん●俳優。1970年、奈良県生まれ。1990年、劇団カムカムミニキーナの旗揚げに参加。劇団以外のプロデュース公演にも多数出演している。現在、NHK Eテレ『ヴィランの言い分』『チョイス@病気になったとき』にレギュラー出演中。
八嶋智人(やしま・のりと)さん●俳優。1970年、奈良県生まれ。1990年、劇団カムカムミニキーナの旗揚げに参加。劇団以外のプロデュース公演にも多数出演している。現在、NHK Eテレ『ヴィランの言い分』『チョイス@病気になったとき』にレギュラー出演中。

舞台、映画、テレビドラマからバラエティ番組まで、圧倒的な個性と存在感で様々なフィールドに挑む、俳優の八嶋智人さん。なかでもその活動の軸といえるのが、1990年、中学・高校時代の同級生である松村武らと旗揚げした劇団カムカムミニキーナだろう。八嶋さんが演劇を志したのは、中学3年生。小劇場ブームの頃だった。

「大阪の小劇場で初めて演劇というものに触れて、雷に打たれたような衝撃を覚えました。全てを理解できたわけではなかったけれど、すごいものを観たなと心がワサワサして。その初期衝動は変わらず持ち続けていて、50歳を越えた今もいい作品を見ると、なんで自分が出ていないんだろうってちょっと悔しいんですよね」

’90年代後半から劇団と並行してドラマにも出演。『古畑任三郎』や『HERO』などのヒット作にも恵まれた。また、今年『不適切にもほどがある!』では、自ら本人役を演じて話題に。役者人生は順風満帆に見える。

「そう、僕は苦労話に困るほど、ものすごく順風満帆です(笑)。本人役は恥ずかしかったですけどね。自分じゃない役を演じるからバカみたいなこともできるのに、自分ですから。脚本の宮藤官九郎くんは同い年で20代からよく知る仲なので、セリフもすごく書きやすかったと言っていましたけど……。でも、ドラマ内に実際の舞台の告知シーンを入れてくれたおかげで、劇場が満員になって。ありがたかったんで、高級なシャトーブリアンを贈りました(笑)」

そんな八嶋さんの劇団の新作『鶴人(つるじん)』は、奈良時代の長屋王や女帝をモチーフに、人間の業や現代社会がはらむ問題までを扱おうとする作品だ。

「僕らが習ってきた歴史のほとんどは勝った側の史実を伝えてきました。今はだいぶ状況が変わりましたが、劇団では負けた側や追いやられてしまった者のストーリーを掘り起こすことで、もう少し広い意味での人類史を捉えられたらと思っています。昔は役者としてとにかく目立ちたいという思いが強かったけれど、今は作品性のほうをより大事にしたい。八嶋がすごかったと言われて喜ぶのではなく、この物語のあの役が面白かったと言われるのがうれしいなと」

今年で35年目。’90年代の全盛期から続く劇団も数えるほどになった。

「実感や体感なく楽しめるエンタメが出てくるから逆に、目の前で生身の人間がのたうち回るようなアナログなコンテンツはなくならない。長くやっていると、過去数千年続く、演劇の歴史を受け継いでいるような感覚になるんですよね。人類の演劇史の大きなうねりの時間の中に自分もいるのが幸せなのかなと思います」

カムカムミニキーナ vol.74『鶴人』

初期衝動とともに未来へ、"演劇"を伝えていく。Stage『鶴人』

日本の神話や史実を元に演劇作品を発表することが多いカムカムミニキーナ。奈良時代に自害したとされる長屋王や当時の女帝たちを題材に、現代の我々がどう生きるべきかを問いかける。作・演出は松村武。東京公演〈座・高円寺〉12月5日〜15日、大阪公演〈近鉄アート館〉12月21日・22日。
https://3297.jp/tsurujin/

『クロワッサン』1130号より

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