【承香院さんの五感で楽しむ平安ガイドVol.2】平安貴族が愛した香りを体感!
撮影・青木和義 構成&文・中條裕子 撮影協力・バックグラウンズファクトリー
魅力を引き立てるアイテムとして欠かせなかったお香。
あの人が通り過ぎるとふんわりよい香りが漂う……そんな大人に憧れたものだけど。平安の世にあって、香りはある意味もっと重要だったのかもしれません。『源氏物語』にもたびたび香りにまつわるエピソードが登場するし、ときにはそれが人物たちの個性を際立たせ、魅力を盛り立てるのに欠かせない小道具として描かれていたりと今日とはまた異なる役割があった模様。
「私も日常的に香を炊いて楽しんでおります」と、承香院さんが取り出したのは、さまざまな香りの原料となる粉末の入った壺や、それらを合わせて混ぜるための乳鉢や香炉といった、道具の数々。
源氏物語にも描かれる雅な香りを原料から練り上げる。
これでいったいなにをするの?と思っていたら、香りの原料となる粉末を数種類、混ぜ合わせ始めた承香院さん。「これらの粉末を合わせ、つなぎに炭を加えて蜂蜜(梅酢なども加えることがあります)と共に乳鉢でつき固めるように練っていきます。水っぽいときは炭を足しながら。程よい硬さになったら、手のひらでころころと転がしながら丸めます。炭が入っているので手が黒くなりますので、お洋服にも気をつけてくださいね」
と言いながら、慣れた様子で黒い大きな丸薬のようなものを拵えていく。お香というと、お線香や小さな円錐形がお馴染みだけど。
初めて見る形ですが、これはどんなお香なのでしょう?「練香と言われるものです。平安時代にはこのようなタイプのものも装束に焚きしめたり、部屋で燻らせたり、香りを日常的に楽しむ文化がありました。源氏物語に『瑠璃の杯に練香が入れられ、光源氏の元に届けられた』という華やかな例も見られます」
当時は貴重だった瑠璃=ガラスの器に練香を入れて、という演出がまたいかにも雅。承香院さんいわく「貴族はそれぞれに自分の香りへのこだわりがあり、レシピは秘伝。几帳で隠しながら調合していたこともあったようです」というから、驚きだ。
黒く艶やかな香りの玉を実際に薫いてみると……。
「今回は、『薫集類抄(くんしゅうるいしょう)』という平安時代のレシピを参考にして沈香を約5割、そのほかに丁子や白檀、甘松、かつ香などを適量合わせた〈荷葉(かよう)〉という夏の香りです。練香は直接火の上にのせてしまうと強い匂いが出てしまいますので、灰の中に軽く埋めるようにして薫きます」
主だった香原料は決まっていても、微妙な配合の仕方や種類によって香りは異なるのだという。「配合は何度も試し、分量はもちろんのこと熟成の具合など、さまざまなアプローチで香りを模索しています。それぞれ異なるバラバラな香りが、ペーストになるにつれてひとつにまとまり、よい香りへと変わっていくのがおもしろいところですね」
そうして承香院さんが香炉に入れ、練香を実際に薫いてみると……。ふんわりと体を柔らかく包み込むような、なんとも心落ち着く甘い香りが漂い出しました。不思議とどこか懐かしい香りに思えます。
暑い時期こそ取り入れたい、心落ち着く平安の香り。
「私は普段から香りを薫いておりますが、こうして香原料から調合することもありますし、それに近い市販の線香を探して取り寄せてみたりもしています」
香原料の調合から始めるのはなかなかハードルが高いけれど、市販のものを試しながら好きな香りを見つけるのは楽しそう。今年は酷暑の予感もある中、自らの身を置く空間だけでも、心落ち着く甘やかな平安の香りを漂わせてみませんか?
今回協力いただいたのは……
香源 銀座本店
全国のメーカー各種の香・線香を5000種以上を取り揃え、お香コンシェルジュによって各人に最適な香りを提案してもらえる。配送での注文も可能。練香、匂い袋、お線香、香木焚き比べといった体験講座も予約にて開催。
●東京都中央区銀座4-14-15 TEL03•6853•8811 営10時17分〜19時17分 無休 https://okoh.co.jp/shop/ginza/