勝村政信さん「人の目を見て話せない、今でも一人でご飯に行けないような人間なんです。」【今会いたい男】
撮影・天日恵美子 ヘア&メイク・奥山信次(B.SUN) スタイリング・中川原 寛(CaNN) 文・黒瀬朋子
「僕にはできなくても、不思議と役ではできてしまうんです。」
窓に張りついて、追われる犯人のような表情をしたり、空気椅子を自ら買って出たり、撮影の場を和ませてくれた俳優の勝村政信さん。
現在、向井理さんと舞台『ウーマン・イン・ブラック』に出演中。1987年、イギリスにて初演。以来、世界40余国で上演されている伝説の二人芝居だ。日本でも8度上演され、勝村さんは9年ぶりに2度目の弁護士キップスを演じる。
「1度やったから覚えていると思うでしょう? なにせ9年ぶりですから、セリフはほぼ忘れていました(笑)」
最小限の舞台セットを2人の俳優が様々なものに見立てて物語を進めていく。演出のアイデアが随所に満ち溢れた、想像力を刺激する舞台だという。
「本当によくできた戯曲だと改めて思います。世界一怖いけれど、とても楽しいお芝居なんですよね」
どの作品でも勝村さんが登場すると、そのほんの少し味付けした台詞回しや動きによって、場面が生き生きと変化していくイメージがある。
「小劇場出身で、エチュード(即興芝居)をよくやらされていたことが、もしかしたら影響しているのかもしれませんね。ただそのまま普通にはやらないところが、自分の中でもあります」
20代は蜷川幸雄さんや鴻上尚史さんら厳しい演出家にとことん鍛えられた。
「『下手くそ!』『もっとほかに(アイデアは)ないのか!』と言われ続けて、心の中で『何くそー!』と思いながらやっていました。この2人を倒さないと前に進めない感じがありました」
結果、どんなアクシデントにも対応できる、多くの演技の引き出しを持つ勝村さんになった。こんなに自由に演じられて、さぞかし楽しいだろうと思いきや、厳しく育てられたので「楽しい」という感覚はないと呟く。
「昔は生意気にも(演じることは)『人生のリハビリ』と話していました。僕自身はあまり人の目を見て話せない、今でも一人でご飯に行けないような人間なんです。でも、役ならどんなこともできてしまう。役を与えていただくことで世界を広げてもらっています」
自分のやりたい役を演るよりも、意外な役を振られるほうが面白いそうだ。
「30歳の時にいただいた役はモグラ(『ウィンド・イン・ザ・ウィロー』)でしたから。最初、台本を叩きつけましたけど(笑)。好評で再演もしました」
どんな役だって、勝村さんにかかれば面白くなること間違いなし!
『クロワッサン』1119号より