リドリー・スコットの映画『ナポレオン』、その見どころとは?
文・黒住 光
妻ジョゼフィーヌから見たナポレオン像。
リドリー・スコットは一貫して闘争のドラマを描き続ける映画作家だ。
監督デビュー作『デュエリスト/決闘者』に始まり、アカデミー賞作品賞に輝いた『グラディエーター』、近作の『最後の決闘裁判』など、フィルモグラフィーに並ぶタイトルを眺めるだけでも「決闘」や「剣闘士(グラディエーター)」といった言葉が目立つ。
そんなスコット監督にとって最新作『ナポレオン』は念願の企画であったに違いない。
ナポレオン・ボナパルトの生涯は闘争の歴史だった。
軍人出身で数々の戦果をあげ、フランス第一帝政の初代皇帝にまで上り詰めるが、ロシア遠征の失敗により失脚し、島流しの身となる。不屈の闘争心で本土へ帰り着き、皇帝の座に一度は返り咲くものの、ワーテルローの戦いでイギリス・プロイセン連合軍に完敗。再び追放の身となり、南大西洋の孤島セントヘレナで生涯を閉じる。
稀代の英雄であり、破滅の王であった。数々のナポレオンの戦いを、本作はCGの使用を極力抑え、生々しい実写アクションを中心に見せていく。スコット作品ならではの一級の戦争大絵巻となっているのだが、実はナポレオンの伝記映画としての見どころは別の部分にある。
「ナポレオンとジョゼフィーヌ」というタイトルでもよかったのではないかと思えるほど、皇后ジョゼフィーヌとの関係が映画の軸となっているのだ。
リドリー・スコットは闘争の作家だが、男性原理主義ではない。
『エイリアン』『テルマ&ルイーズ』『G.I.ジェーン』など闘う女性の映画も数多く撮っている。名門グッチ家のスキャンダルを題材にした『ハウス・オブ・グッチ』では、殺人事件のサスペンスよりも名家に嫁いだ庶民の女の階級闘争に焦点を当てた。
現代のグッチ家とは異なりジョゼフィーヌの時代に「女ができること」は限られていたが、その限られた範囲の中でジョゼフィーヌは精いっぱいに自己を貫く。ナポレオンの生涯はジョゼフィーヌの闘争でもあったことを、この映画は教えてくれる。
\ココが見どころ!/
戦闘シーンの迫力もさることながら、ドラマとしての見どころはナポレオンとジョゼフィーヌを演じる主演の2人。スコット作品『グラディエーター』では悪役を悲劇的に演じたホアキン・フェニックスが、今回は主役ナポレオンの持つ英雄と悪魔の二面性を演じます。対するジョゼフィーヌ役のヴァネッサ・カービー(『ミッション:インポッシブル』シリーズなどに出演)は、ふてぶてしい強さ、 潔い儚さの二面性で運命の美女を演じます。
『クロワッサン』1107号より
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