黒人社会からも愛された、稀代の白人ソウル歌手、ボビー・コールドウェル【高橋芳朗の暮らしのプレイリスト】
ボビー・コールドウェル 『What You Won’t Do for Love』
都会的に洗練された大人のロック/ポップスの代名詞的存在として親しまれたニューヨーク生まれのシンガーソングライター、ボビー・コールドウェルが3月14日に他界しました。71歳でした。
ボビーは白人の歌手としては異例なことに黒人コミュニティから熱烈に支持されていましたが、それは彼のデビュー時にレコード会社がとった戦略が功を奏した結果でもありました。
ボビーが所属するレコード会社の幹部は、彼のソウルフルな歌声は黒人リスナーにも強くアピールすると確信。偏見を持たずに聴いてもらいたいと考えてアルバムのジャケットのボビーの写真をシルエットに加工するなど、彼が白人であることを隠してデビューさせたのです。
こうして1978年に発表されたボビーのデビューアルバム『Bobby Caldwell』(邦題『イヴニング・スキャンダル』)は、ポップチャートよりもブラックミュージックのチャートで上位にランクイン。大ヒットしたシングルの「What You Won’t Do for Love」はリリース直後から黒人コミュニティで愛唱歌になりました。
生前のボビーは、当時の状況をこんなふうに回想していました。
「私の曲は現在もなお黒人のオーディエンスに愛されています。私が白人だとわかったあとも『裏切られた!』というような反応は一切ありませんでした。彼らは音楽には色がないという当たり前の事実を素直に受け入れてくれたのです」
『クロワッサン』1093号より