「何を大切に生きていきたいかを問う」住まいの見直し術と、家の廻りをよくする7つの心得。
子の独立、自身の働き方の変化など、ライフステージが変わるこの時期に、家のあり方も一度俯瞰してみよう。
これからの自分と家族に心地よく、快適な生活を実現する住まいとは?
多くの実例からそのヒントを見つけて。
撮影・徳永 彩(KiKi inc.) 文・松本あかね
モノを巡らせ 身軽になって、「今」を生きる。
井田典子さんが娘家族と暮らす2世帯住宅は、新婚時代から数えて5軒目の家に当たる。
窓の外には家庭菜園やレモンの木。キッチン、ダイニング、リビングがひと続きの空間がひと際ゆったりと感じられるのは、天井の高さもあるけれど、床がモノで塞がれていないせいでもある。井田さんは言う。
「ずっとギリギリのスペースで暮らしてきたから、やっとこの家で床の広がりを楽しめることが、私にとって一番のご褒美なんです」
2Kの借家に始まり、3DK、4LDKと家族が増えるに従い住み替えてきた。4軒目の家のとき、3人の子どもが次々に独立。そのたびに持ち物を残さないことを原則として子ども部屋をリセット。この家に引っ越すにあたってはさらにモノを厳選した。
「新しい家に引っ越すときって、どんな家具を置こうかと夢が広がりますよね。でもその前に過去を手放して代謝していかないと、次のステージには行けないと思います」
家族の変化に応じてモノを代謝させる。
「家は体と同じ」だという井田さん。体の代謝が滞れば具合が悪くなるのと一緒で、使わないものが場所を塞ぎ、動線が確保できない家では生活がうまく回らなくなる。
怖いのは、そういうなんとなくの「不調」が当たり前になってしまうこと。
整理収納アドバイザーとして多くの家を訪問する中でも、超多忙な共働き家庭では行くたびに便利家電が増えるものの、アフターケアができないままホコリをかぶり空間を塞いでいたり。また、歴代の推しグッズが捨てられず居住スペースを圧迫している例なども。
「モノはちゃんと使って栄養にして取り込む。使わなければ譲る、処分するなど家から出していかないと。モノが固まると思考も固まって、自分から変化していけなくなってしまうから、健康診断と同じように、定期的に家の中の見直しが必要です。特に家族のステージが変わったときはいいチャンス」
子どもが大きくなり、家を出るときは、大きな節目であるばかりでなく、教育費も住宅ローンもピークを過ぎ、気持ち的にも経済的にも余裕が生まれるタイミングでもある。
「この時期にもう一度、これから何を大切に生きていきたいか、問い直すことができたらいいと思います。例えば絵を描きたい、友だちと何か始めたいとか、これからやりたいことが叶う家になるといいなと思っていて」
井田さん自身、この家に越してきたタイミングと夫の第一次定年、リモートワークの開始が重なり、今では家事のほとんどを二人で分担するようになった。
ライフワークである片づけのサポートのほか、ボランティア活動など、専業主婦時代にはできなかった社会に出て人と関わる夢が叶い、充実の日々を送っている。
「人生が巡るように家も巡っていかないと。見ていると『時の列車』から乗り遅れている人が多いと感じています。過去の子どもの持ち物とか、昔ブームだったものとか、家族の残骸の中で暮らしていると、今の列車に乗り遅れてしまう。それはすごくもったいないことです」
誰だって、今の荷物だけ持って、今の列車に乗っていきたい。住まいを見直すことは自分を見直すことに通じる。だから、抱え込んだものを手放し、社会に巡らす一歩を踏み出したい。