ふたりの店主が語り合う、コロナ禍で多様化するカフェの在り方。
それぞれの視点からカフェの在り方、理想の店作りまでを語り合う。
撮影・馬場わかな 文・松本昇子
カフェ『MOON mica takahashi COFFEE SALON(ムーンミカタカハシコーヒサロン)』店主の高橋美賀さんと、サロン『HEIGHTS』オーナーの山藤陽子さん。
コロナ禍でさまざまな変化を求められるなか、発信の仕方、お客さんとの関係性、多様化するカフェの在り方についてまで、高橋さんが営むカフェで、自由に語ってもらった。
山藤陽子さん(以下、山藤) いつからこのお店を始められたんですか?
高橋美賀さん(以下、高橋) 2018年6月からなので今年で5年目です。半分以上はコロナ禍での営業になりました。
オープンしてすぐの頃から、ありがたいことにたくさんのお客様に来店していただいたのですが、ちょうどインスタグラムが台頭し始めた時期で。写真撮影だけの目的で来られる方も多かったですね。
日々の業務にも追われ、疲弊してしまうこともあって。写真に残したいと思ってもらえることはうれしいけれど、もっと自分らしい幸福の時間を楽しんでほしいのに、そのためにお店を開いたのにって。
山藤 ジレンマですよね。
高橋 はい。自分自身が楽しめず、当時はやめてしまおうかとすら思ったことも。
そんな時にコロナ禍に入り、緊急事態宣言が発令されたんです。飲食店にとって影響は大きく、やむを得ず一度休業しました。
そこで本当にやりたかったことをやろうと整理して、徐徐に再開していくという形で、不定期営業を始めてみました。
実は、コロナ禍に入る前から、もっと自由な営業の仕方でもいいじゃないかと思っていて。年中無休で遅くまでやるというルールがあるんだっけ? と。
みんながそうしているから、それに倣うしかないと思っていたけれど、自分らしくいたくて内心うずうずしていたんです。
そうしたらたまたまコロナ禍という、考え方をリセットするタイミングが訪れました。試しにいろいろやってみたことが、私にとってはすごくよかったですね。
山藤 営業形態を変えても不思議がられない、いい機会でしたよね。
高橋 はい。少し前からオリジナル商品を販売するようになっていたのですが、地方から通販を希望される声も実はたくさんあったので、喫茶をしない時は通販発送作業や商品開発の時間に充てるようにしました。
これは珍しいことではなく、私と同じように店舗営業を減らし、通販を充実させている書店があるという話も聞きました。飲食だけでなく全体的な働き方改革というか、在り方は店の主によってそれぞれでもいいんじゃないかなと感じるようになりました。
山藤 コロナ禍で世の中の方向性も変わって、消費の仕方や人の考え方も変わってきましたよね。
ワンオペ不定期営業のメリット、デメリット。
山藤 私はコロナ禍に入る前から、ひとりで不定期営業の予約制サロンをやっていたんです。
高橋 “ワンオペ営業”の先駆者ですね。
山藤 今年で8年目になるんですが、当初はマンションの一室で何をしているのかと不審がられたりしましたよ(笑)。
私がなぜそういう営業形態を選んだのかというと、ほかにスタッフがおらず、自分ひとりだったから。物理的にずっとお店を開けていることができないという事情がありました。
商品セレクトは、本当に自分が好きなものだけ。食べて美味しい、着て心地いいと自分が感じるものだけに特化しました。
マス向けにいろんな商品を見せていると、他の有名なセレクトショップとの差別化ができません。もっと言えば細かい機微やフェチ的に惹かれること、偏って“偏愛”を伝えないと、同じ意図を持ったお客様に見つけてもらえないんじゃないかって。
高橋 たしかにそうですが、そうすることの不安はなかったですか?
山藤 怖かったですよ。マス向けではなく、私の好きなことを好きな人だけに、というのは数も少ないですから。そこを限定することに不安はありましたが、思い切って打ち出していくと「そうそう! 私もそれが好き!」という方に、見つけてもらいやすくなった。どんなに偏っていても、ブレずに続けることでお客様も増えていきます。