世界初の企画展。初来日の傑作が集結。『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』
文・知井恵理
「ロンドンで、訪れて満足した場所」と言うと、必ずといっていいほど名前が挙がるロンドン・ナショナル・ギャラリー。その世界初となる館外での大規模な所蔵作品展が本展だ。
「ナショナル・ギャラリーの最大の特徴は、自国だけでなく、イタリア、フランス、スペインなどヨーロッパ中の絵画を幅広く収集していることです。“西洋絵画の教科書”といわれるほど名品ぞろいのコレクションを存分に楽しんでいただけると思います」(国立西洋美術館主任研究員・本展監修者・川瀬佑介さん)
修復や保存、額装にも伝統的に力を注いできたナショナル・ギャラリーだけに、どの作品も細部まで見応え充分だ。そうしたコレクションのなかでも、フェルメールの晩年の作品やゴッホの『ひまわり』を含めた、ルネサンスから19世紀ポスト印象派までの傑作を一挙に公開。61作品すべてが初来日となる。
「クリヴェッリの『聖エミディウスを伴う受胎告知』も、注目の一作です。モチーフで画面を埋め尽くさないと気が済まないという(笑)、非常に際立った個性を持つ作家で、世界中にファンも多い。彼が15世紀に描いた完成度の高い作品が、海を渡るということ自体が本当に貴重なので、じっくりご堪能ください」
こうした名作の数々が7つの章に展示されており、鑑賞するうちに、英国における欧州絵画の収集史を体感できるのも本展の大きな特徴だ。
「庭や自然を好む英国らしく、理想の風景を描いた作品は多く収集されました。肖像画も多く描かれています。一方、プロテスタントという背景から宗教画や裸体画は少ない。イギリスの視点を通した絵画からヨーロッパ大陸との交わりが見えるのも興味深いと思います」
本展では定員制を設けており、『ひまわり』などの世界的傑作もゆっくりと間近で鑑賞できる。いきいきとした色使いや勢いのある筆致が、鮮烈に目に飛び込んでくる醍醐味もぜひ味わってみてほしい。(文・知井恵理)
フィンセント・ファン・ゴッホ 《ひまわり》
「ゴッホの絵には影がありませんが、これは花瓶の真ん中にハイライトを入れることで立体感を出しています」
ヨハネス・フェルメール 《ヴァージナルの前に 座る若い女性》
「不遇だった晩年の作品。光源としていた窓を閉じたのは新境地を求めた実験だったのかも? 興味深いですね」
ディエゴ・ベラスケス 《マルタとマリアの 家のキリスト》
「魚はキリスト、卵は再生の象徴とも言われますが、そうした宗教性とリアルな生活を見事に一致させるのが、ベラスケスの巧みさです」
クロード・モネ《睡蓮の池》
「遠近感がわかりづらい正方形の構図で、平面的な風景を表現しています。浮かんだように見える橋も平面的な構図の妙ですね」
国立西洋美術館
(東京都台東区上野公園7・7)TEL.03-5777-8600 営業時間:9時30分〜17時30分 (金・土曜〜21時) 月曜、9月23日休(8月10日、9月21日は開館) 料金・一般1,700円
※入場は日時指定制。国立西洋美術館での本展の入場券販売はなし。詳細は公式サイトにて。https://artexhibition.jp/london2020/
『クロワッサン』1025号より
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