ゲーム機はどこにある!?│山口恵以子「アプリ蟻地獄」
イラストレーション・勝田 文
ママにゲーム機を隠された少年が、何とかママを出し抜いて取り戻すというゲームアプリ。ママに見つかったりトラブルを起こして自滅するとゲームオーバー。
ステージは1から30まであって、難易度は徐々にアップする。
このママは至る所に出現する。カーテンの陰に隠れているくらいは想定内だが、奇想天外な場所から現れて笑わせてくれる。
そしてママの仕掛ける「邪魔」も奇想天外。組体操やラグビーチームやオートバイが出てきたり、泉の中から女神が現われて「あなたの落としたゲームは金のゲーム、銅のゲーム?」って、思わず脱力。どうやって女神を連れてきたんだよ?
途中で手に入れたアイテムは「邪魔」を排除するために使用できるのだが、「13日の金曜日のジェイソンの仮面」とか、ユニークとアホの境目みたいなアイテムが満載で楽しい。見張り番のお祖父ちゃんにお水いっぱい飲ませてトイレに立たせ、その隙にゲーム機をゲット、とか。
私は途中で降参してしまったが、最後まで攻略した人によると「ラストシーンは号泣もの」だそうだ。
それにしても、これほどの企画力とプロデュース力を有し、幅広い人脈(だって女神まで知合いなんですよ)にも恵まれた「ママ」は、いったい何者? こんなすごい女性が息子のゲーム隠しに時間を取られるなんて、人類の損失じゃありません?
そして息子よ、ゲームで遊ぶより「ママ」の言動に注目した方が、絶対に面白いと思うよ。
山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。最愛の母と過ごした最期の日々を綴ったエッセイ『いつでも母と』(小学館)。
『クロワッサン』1018号より
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