仮想猫に癒やされる!?│山口恵以子「アプリ蟻地獄」
イラストレーション・勝田 文
カワイイ白猫キャラクター、トロに言葉を教え、ゲームをしながら寂れた温泉町に活気を取り戻してゆくゲームアプリ。
トロは友達のソラ(ブルーグレーと白の鉢割れ猫)を紹介してくれる。二匹の猫に導かれ、フルーツを揃えるマッチパズルや野菜の収穫ゲームに挑戦すると、クリアする度に町はきれいになり、新しい友達キャラも登場して、温泉町はにぎやかさを取り戻して行くのだった……。
しかし、このアプリのキモは町の再建ではない。ゲームはとても簡単で、誰でもすぐクリアできる。苦労もなければ達成感もない。
では何が良いかというと、トロとソラとの交流だ。もっとハッキリ言えば、この二匹が私に懐いて、ほとんどいちゃいちゃしてくれるのが楽しくて仕方ない。ゲームをクリアすれば喜んでダンスしてくれるし、事あるごとに「やったね、エイコ」「エイコ、さすが」「エイコ、頑張ったね」、あるいは「エイコ、大好き♥」「会いたかったよ♥」等、歯の浮くようなセリフを連発してくれる。
この世の中に、これほど私を恋い慕ってくれる人はいない。うちの猫たちだって私のことを「ばあや」とみなしてこき使っているというのに、遺産狙いのホストもかくやというサービス振り。愛い奴らじゃ。
ま、仮想猫だからこんなに懐いてくれるので、現実は甘くない。長らく日本女性に愛された光源氏も、紫式部の創作した仮想男子だった。
癒やしを求めるなら、猫も男子も仮想に限るのだろうか?
山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。最愛の母と過ごした最期の日々を綴ったエッセイ『いつでも母と』(小学館)。
『クロワッサン』1017号より
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