日本人形を愛でる!? │ 山口恵以子「アプリ蟻地獄」
イラストレーション・勝田 文
突然託された日本人形を母親代りに育てる育成アプリ。成長に応じて変異を遂げ、感謝のお手紙をくれる。
以前試した似たアプリの「赤ずきん」とは違い、最初から不気味なビジュアル。こけしのように手足もなく、目も鼻も口もない。まるで「どろろ」(手塚治虫作)の百鬼丸。父親が出世と引替えに生まれてくる子の四十八体を悪鬼に捧げたため、身体の各部分を取り戻すために悪鬼を倒して行くという、すごいキャラクターだ
手塚治虫の描く百鬼丸は美形だったが、この日本人形の卵、というか赤ん坊は、成長したら絶対に恐怖キャラになるだろうと最初から分っている。それでも「おかあさん、おかあさん」で始まる健気な手紙にほだされて、スマホを撫でたりタップしたりと、育成の手を止められない。
が、途中から手紙の文言も段々怪しくなってくる。最後には殺されるのでは、という予感さえ漂う。
人形はどうなる?
そして母たる私の運命や如何に?
それにしても、お菊人形や「チャイルド・プレイ」のチャッキー等、人形は結構恐怖キャラに使われる。USJが人形供養をしているお寺の人形を借り受け、ホラーアトラクションに陳列したこともあった。
元来人々に愛でられる存在だったのに、何故だろう?
私はきっと人形の美しさ故だと思う。美人には凄みがある。人形は、特に昔の人形は美しく整った顔をしているので、人を畏怖させる魔力が宿ると思われたのかも知れない。
幽霊ってだいたい美人だし。
山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。近著に『夜の塩』(徳間書店)。
『クロワッサン』1015号より
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