「医療費払い戻し詐欺」被害者インタビュー、その巧みな手口とは。
撮影・土佐麻理子 文・保手濱奈美 イラストレーション・村上テツヤ
払い戻しの手続きのはずが、いつの間にかお金を振り込まされて……。
詐欺の撃退には、自信があったんですけどね。(阿部さん)
クロワッサンでもおなじみ、生活研究家の阿部絢子さん。消費生活アドバイザーの資格も持ち、誰よりしっかりしている阿部さんが、昨年、詐欺でお金をだまし取られたということで、編集部にも衝撃が走った。
「家の電話はいつも留守電にしていて、相手の名前を聞いてから出るようにしているんです。でも、その日は直前に知り合いと話していたので、その方が言い忘れたことでもあるのかと思い、留守電になる前に出てしまって……」
8月の暑い盛り。「少しぼんやりしていたのかも」という状況も重なって、詐欺の電話に対応してしまうことに。
医療費の払い戻しがあるという嘘の電話から詐欺は始まった。
手口はこうだ。“区役所の川上”と名乗る男からの電話で、’18年に医療費に関する法律の改正があり、3万6180円払い戻される、と。申請書が必要だが、阿部さんからは届いていない。申請期限は数日前に切れているものの、区役所の取引銀行と連携して、救済する、と言うのだ。その後、実在のメガバンクの“前田”と名乗る男から、近所のATMで今すぐ申請手続きを行えば救済できる、との電話を受ける。
「この時、私は『払い戻されたお金でおいしいものを食べよう』とうれしい気持ちで、誘導されるがまま。ATMの前に立ち、電話の向こうからの『この番号を押してください』といった指示に、何の疑いもなく従っていました」
実はそれは金額のボタンで、気づかぬうちに数回に分けて計199万円振り込まされていたという。さらに、「キャッシュカードが傷んでいるようで、申請ができないかもしれない。新しいカードはないか」と言われ、たまたま新しいカードを持っていたため、そちらでも同様の手口に乗ってしまった。
巧みな手口で誘導されるまま、気づいた時は残高がマイナスに。
「損害額は合計280万円以上。翌日、取り寄せていたかまぼこの代金を振り込もうと銀行に行った時に、残高がマイナスになっていたのを見て、やっと昨日のが詐欺だったと気づきました」
今度は振り込んだ先の銀行からも、詐欺に遭っていないかと電話、その勧めで警察に報告。警察署で取り調べを受け、顔写真を撮られたほか、自宅やATMなどで証拠写真も撮影された。
「自分は大丈夫だと思っていましたが、実際は驚くほど手口が巧妙。他人事と思わず、私のような経験をしないように、本当に注意してもらいたいですね」
【だまされないための3カ条】
一、「私は大丈夫」と思わない。
その思い込みは捨てること。誰しも、うっかりすることや、魔が差すことがある。
二、自分の身は自分で守る。
詐欺対策用の電話に替える、普段、使わない口座のカードは持ち歩かないなど自己防衛を。
三、うまい話なんてないと肝に銘じる。
お金が戻ってくるなど、うまい話はまず疑う。それが知らない人からの連絡なら、なおさら。
『クロワッサン』1014号より