【沙羅さん×篠原菊紀さん 対談】物真似【2】
脳と物真似との関係を探ります。
撮影・青木和義 ヘア&メイク・大谷亮治 文・嶌 陽子
物真似芸人になる前から誰かになりきるのがクセでした。(沙羅さん)
物真似は脳をすごく使う行為。脳トレをやり続けるようなものです。(篠原さん)
物真似対談2回目に登場するのは、綾瀬はるかさんなどの物真似でブレイク中の物真似芸人・沙羅さんと、脳科学者の篠原菊紀さん。物真似の面白さ、奥深さについて、脳の働きや仕組みという観点から迫ります。
篠原菊紀さん(以下、篠原) 沙羅さんの顔マネ(次ページ)、楽しませてもらいました。綾瀬はるかさんや丸山桂里奈さん、どれもすごく似てますね。
沙羅さん(以下、沙羅) どうもありがとうございます!
篠原 沙羅さんは、基本的にいわゆる美人顔だから、似やすいんですよね。
沙羅 (綾瀬はるかさんの声で)えー、えへへへ。
篠原 「平均顔」とも言えますね。人の顔は、目と目の間の距離や鼻の長さなど、各部分をパラメータ(変数)で表せるんですが、それを平均化すると好まれる顔になるんです。人はたくさんの顔を見ているうちに脳内で「平均顔」を作って、それを好ましいと思う傾向が出てくる。いわゆる「整った顔」「きれいな顔」と言われる人は大体ベースが似ているんです。(お笑いコンビの)ミキの亜生さんも、男性だけれど顔が整っているから似やすいんでしょうね。
沙羅 ミキの亜生さんと丸山桂里奈さんは、周りの人から「似てるよ」って言われて「じゃあ、やってみようかな」とカツラを被ってみたら似てしまったんです(笑)。壇蜜さんも、自分では全く思っていなかったのに、周りに「似てるからやったほうがいい」って言われて。
篠原 他者からの評価によるものだと、似る確率が高いでしょうね。
沙羅 マネする人を決めたら、テレビを見ながらその人をひたすら観察して、その人がよくしがちな表情を探します。
篠原 その観察というのは、静止状態に対しての意識が強いのか、変化に対してなのか、どちらですか?
沙羅 うーん、変化だと思いますね。たとえば、綾瀬さんの物真似コントをやる時は表情の変化をすごく誇張するんです。(ぼうっとした表情で)「へー、そうなんだ」、(突然驚いた表情に変わり)「はっ!」みたいな。
篠原 ははは。そうやって、どこからどこへの変化をマネすると印象づけられるかを考えるってことですね。
沙羅 そうかもしれないですね。
篠原 笑いの元になるものって、変化、つまりギャップなんですよね。脳科学の世界では報酬予測誤差と言っています(下のグラフ)。つまり、予期した報酬と、実際に得る報酬の誤差のこと。その変化が笑いを生むんです。
“報酬予測誤差”が笑いを生み出す。
沙羅 なるほど。勉強になります!
篠原 最初は物真似をした時点で、快楽に関係するドーパミン神経が大きく活動する。でも何回もやっていると予測がつくようになるので、沙羅さんが観客の前に出た時点でドーパミン神経が最も大きく活動し、実際の物真似への反応はゼロになる。さらに予測していた報酬を得られない、つまり期待していた芸が見られない時はマイナスになって、観客の失望や怒りを買いかねません。
沙羅 いい意味でお客さんの予測を裏切る必要があるんですね。同じ綾瀬はるかさんのマネでも、情報を更新させたり、深みを持たせる必要がありますね。あとは、レパートリーを増やすこと。綾瀬さんに似ていながら、同時に丸山桂里奈さんや亜生さんにも似ているのも変化の一つだと思っているので。
篠原 実際にうまくいくかは分からないですが、理論上はもうひとつ手があります。常に報酬を出し続けると、報酬の価値が小さくなってしまう。だから、報酬が出る確率を50〜75パーセントに設定するんです。つまり、常にウケる芸をするのではなく、時々スベるっていうことですね。予測とのズレを作ることで、ドーパミン神経の反応を維持できます。
沙羅 これからは、物真似がスベった時は先生のお話を励みにします。「今スベったのは、今後ウケるために必要なことだったんだ」って(笑)。
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