日本ならではの「渋さ」の美を堪能。日本民藝館 『柳宗悦と古丹波』
文・嶌 陽子
大らかな形、モダンな意匠、可憐で優しい雰囲気。展示されている品々を見ると、「これらがひとつの窯場から生まれたのか」と、その多様さに目を見張る。民藝運動の創始者・柳宗悦が惚れ込んだ古丹波の焼き物を紹介する展覧会が、東京・目黒の日本民藝館で開催中だ。日本民藝館の所蔵品から選んだ約100点に加え、今年で開館50年になる兵庫県丹波篠山市の「丹波古陶館」から約50点。壷や甕、徳利や皿などが一堂に会する。
信楽や備前などと並び、日本六古窯のひとつである丹波窯。平安時代末期の開窯期から江戸末期までに焼かれたものが古丹波と呼ばれる。
「“丹波の七化(しちば)け”と言われるくらい、丹波焼はバリエーションが豊か。京都や大阪に近いことや、交通の要所で人や物資が集まる土地だったことが背景にあるのかもしれません」(日本民藝館学芸部長・杉山享司さん)
長い間、茶道具ばかりが評価されてきた丹波焼。だが、宗悦の眼差しは日常雑器の素朴さに向けられた。1924年に移り住んだ京都の朝市で丹波焼に出合ったのを機に、丹波篠山の道具商・尚古堂の協力を得ながら、蒐集に励むようになる。特に宗悦が驚嘆したのが、中世期に穴窯で作られた器の数々。薪木の灰が焼き物の上に降りかかり自然釉となる“灰被(はいかつぎ)”に心奪われた。本展でも展示されている灰被の焼き物も、何とも言えない迫力をたたえている。
「自然の計らいによる美しさを、柳は『他力の美』と評しました。『美は作るものではなく、生まれ出るもの』という信念を、古丹波によって深めたのでしょう。さらに“渋さの美”という、日本人の美意識に深く触れる魅力が丹波焼に宿っていると考えたのです」
「渋い」は「侘び寂び」とも違って、より暮らしに根ざした、親しみや粋を感じられるもの。展示された器の数々からも、どこかほっとする空気が漂ってくる。宗悦が敬愛してやまなかった“渋さ”の美。日本の美の真髄を、この機会にじっくりと味わいたい。
日本民藝館
『柳宗悦と古丹波』〜11月24日(日)
東京都目黒区駒場4-3-33 TEL.03-3467-4527 営業時間:10時〜17時(入館は〜16時30分) 月曜休館(祝日の場合は開館、翌火曜休館) 料金・一般1,100円。
『クロワッサン』1006号より
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