【後編】人生のお愉しみはこれから!中野翠さん流、70代の暮らし方。
撮影・青木和義 イラストレーション・中野 翠 文・斎藤理子
「娯楽として久しぶりに、 勉強するのは愉しい。」
中野さんは、2年ほど前に、小さな地球儀を買った。
「高校時代の世界史の先生が、教え方がどうもイマイチで(笑)。授業中クラス全員が寝てたんです。だからなのか、世界史とか世界地理とかの知識が全然身についてなくて。ニュースや映画を観ていると、知らない国がたくさん出てくるので、どこにあるどんな国なんだろうって知りたくなったの」
机の上に置いた地球儀を眺めていると、平面地図ではわからない位置関係や国土の大小が明確になったり、大航海時代に心が飛んだりして、没頭してしまうのだそう。歴史上の事柄もいろいろと思い出してきたので、勉強をもう一度やってみたくなり、世界史の教科書も購入。
「落ち着いたらやりたいのは、 針仕事と温泉旅行かな。」
子ども時代に好きだったことの 復習をするのがオススメ。
「専門的に勉強というわけではなくて、あくまでもザッと知りたいだけだったのね。だったら教科書がいいと思って買ったら、これがわかりやすくて大正解。ひとつのことを確認するとその前後も読んで知識が広がっていくのが、娯楽としてただただ愉しい」
いつでも手に取れるように、教科書も地球儀の横に。今や机周りはちょっとしたお愉しみスペースになっている。
「今はまだ忙しくて、あまり時間が取れないけれど、もう少しゆとりができたらやりたいのは断然針仕事。布が大好きで、ボタンや端切れやレースをたくさんため込んであるので、それをどういうふうに生かすかがこれからのテーマです。といっても、テキストどおりきちんと仕上げるのは苦手。パンツのリフォームみたいに、思いつくままフザケた気分でやるのが好き。穴のあいたTシャツの穴のところにレースの花を縫いつけたり、そういうのを“インチキ手芸”と呼んでいます」
手芸に限らず、何事にも大雑把な性格だと自己分析する中野さん。きっちり、几帳面な妹とは正反対だそうだが、近年は一緒に旅行する機会が増えているのだと語る。
「旅行は大好き。以前は高校時代からの親友と国内外問わずあちこち旅してたんだけど。彼女が海外在住になり、一緒に旅するのが難しくなっちゃって。若い頃のように一人旅もいいのだけれど、やはり連れがいたほうが何かといいじゃない? それで妹夫婦と旅してみたら、これが思いのほかよくて」
物事が先に決まっているのが好きではないので、親友との旅はすべて行き当たりばったりだった。それが、几帳面な妹夫婦が様々な手配をすべてやってくれる旅を経験して、お任せする気楽さに気がついたという。次は北国の温泉を訪ねたいと思っている。
「女友だちとのメール句会が、 都会で季節を見つけてくれる。」
高校以来の親友は私の俳句の師匠でもあるの。50代の頃、同世代の友人たちと句会を始めてからの宗匠役。句会はなくなってしまった今でも、彼女とはメールで二人だけの句会を続けています。毎週末の締め切りはいつもあっという間に来るし、送った俳句には手厳しい批評が返ってきたりもするけれど、毎週のやりとりが親友との絆になっていて、張り合いがあるの」
中野 翠(なかの・みどり)さん●コラムニスト。社会事象から映画や本、落語などの評論を手がけ、近著『いくつになっても トシヨリ生活の愉しみ』(文藝春秋)をはじめ著書多数。
『クロワッサン』1003号より