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歯周病は万病のもと!専門家が語る令和時代のオーラルケアの極意とは?

2023年10月に行われた「歯と口の健康シンポジウム2023」のテーマは「腸に到達する歯周病菌を防ぐ! 歯周病のリスクとオーラルケア。全身の健康とは切っても切れない腸と歯周病との関連を、わかりやすく解説。毎日のオーラルケアを見直したくなること必至、です!

イラストレーション・佐々木一登(歯ブラシの握り方の画像のみシンポジウムより提供) 文・中條裕子 「歯と口の健康シンポジウム2023」(主催:公益社団法人 日本歯科医師会、協賛:パナソニック株式会社)

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口腔ケアが腸、そして全身の健康の鍵を握っています。
口腔ケアが腸、そして全身の健康の鍵を握っています。

知らないうちに進行。万病のもととなる歯周病の恐ろしさとは?

今回のシンポジウムでは、第一部で専門家によるトークセッションが行われました。対談したのは、大阪大学大学院歯学研究科 予防歯科学講座 教授の天野敦雄先生と、内科医・認定産業医の桐村理紗先生。まずは歯周病の恐ろしさについて教えてくれました。

 シンポジウム第一部の登壇者。左・天野敦彦先生、右・桐村理紗先生
シンポジウム第一部の登壇者。左・天野敦彦先生、右・桐村理紗先生

「歯みがきに自信があるという患者さんでも、実際にプラーク(歯垢)を赤く染めてみると実は歯のあちらこちらにたくさん残っているのがわかる。みがき残す部分はいつも同じなので、365日ずっとプラークが付いているということ。それがだんだん硬くなり歯石となって溜まると、歯と歯茎が離れて歯周ポケットという隙間ができてしまうんです」(天野先生)

みがき残す部分はいつも同じところ。そこには常にプラークがあることになってしまいます。
みがき残す部分はいつも同じところ。そこには常にプラークがあることになってしまいます。

この隙間から歯茎に炎症が起き、赤く腫れて骨が痩せ、歯がぐらつくという状態に。”サイレントディジーズ”と言われるように、歯周病は初期の段階では痛みを感じないので、気付いたときにはかなり進行しているのだという。

「健康なプラークは誰にでもある。でも、歯みがきをきちんとせずにいるとプラークの中にひそむ歯周病菌の活動が活発になってしまうんです。この菌が好むタンパク質と鉄分、その両方が血液の中にある。歯をみがいて血が出る場合は、歯周病菌が元気になっている可能性が……」(天野先生)

そんな兆候がある場合は要注意。まずは自分の口腔内の健康状態を把握して、歯周病を予防する、進行させない、という意識をしっかり持つことが何より大切となってくる。なぜなら、歯周病は今や口腔内にだけとどまる問題ではないのだから。

「21世紀になって万病のもとであることがわかったんです。骨が痩せるほどの歯周病になると全身100以上の疾患が起こり得る。肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などのほか、動脈硬化、脳出血、心筋梗塞、認知症などにも関係しています」(天野先生)

腸活するならオーラルケアを忘れずに!

歯周病が腸内フローラへも悪影響を及ぼしている、というのは今や常識。
歯周病が腸内フローラへも悪影響を及ぼしている、というのは今や常識。

口腔内をキレイにすることと全身の健康管理は両輪、ということがよくわかりました。加えて、最近指摘されているのは腸内環境への影響。これは聞き逃せないトピックです。

「口腔内細菌は常に腸と交流しています。口腔内細菌の乱れで起こる病気と、腸内細菌の乱れで起こる病気はかなりオーバーラップしているんです。肥満、糖尿病、動脈硬化、関節リウマチといった炎症の病気、炎症性の脂肪肝、生活習慣病やがん。大腸がんの原因がまさか歯周病菌とは思わないですよね」(桐村先生)

健康の基礎はここにあり!と言われ、今とても注目されている腸活。食生活に気をつけて腸内環境を改善しようと心がけている人は多い。が、忘れているのが口、オーラルケアなのだと桐村先生。食べ物は必ず口を通って腸に入っていく。歯周病菌があると、その菌も一緒に腸まで届いて腸内細菌叢が乱れてしまうのだという。せっかくの腸活の成果を台無しにしないためにはオーラルケアをきちんと行うことが何より大切というお話に、思わず納得。

歯周病のウソ/ホント、どちらが正しいでしょうか?

ここからは、歯周病についての知識をチェックすることに。巷でよく言われていることは本当なのかを改めて確認しましょう。ひとつ目は「歯周病は遺伝するの?」という問題。

「糖尿病になりやすい体質は遺伝します。唾液の質も遺伝する。歯周病自体は感染症だけど、親が歯周病になりやすい体質だったら気をつけましょう」(桐村先生)

では、これも気になるところですが……「肥満の人は歯周病になりやすい?」。

「なりやすいです。肥満になると細胞自体が太って炎症を起こす物質が出てしまい、それが歯周病を起こすことがわかっています。歯周病で炎症が起きると肥満になりやすいという逆のルートもあり、相互に関連しているんです」(桐村先生)

そして、よく言われている「大皿を一緒に囲むとうつってしまうの?」という疑問。

大皿を直ばしで食べる。歯周病はうつる?
大皿を直ばしで食べる。歯周病はうつる?

「歯周病は唾液感染なので、一番うつる可能性が高いのは家族から。日本人は大皿を直ばしで食べる文化なので。ただ、きちんと口腔ケアをしていれば歯周病菌は感染しても定着せず発症しません」(天野先生)

歯周病予防にはセルフケアとプロの力が必須。

プロの力を借りて正しいセルフケアに役立てよう。
プロの力を借りて正しいセルフケアに役立てよう。

歯周菌はうつるのが前提、現在はいかに発症させないようにするかという考え方にシフトしているという。ケアして予防ができるのは心強い限り。けれど、歯みがきは思っているより難しい、と天野先生は言う。

「気をつけるべきは、歯と歯の間をしっかり磨くこと。歯ブラシだけでなく、フロスや歯間ブラシなどの補助器具も使うと効率的なセルフケアができます。ただし、セルフケアではどうしても2割ほどは落としきれないところが残る。そこで忘れてはいけないのが、プロの手を借りること。みがき残しをしっかり除いてもらい、自分のみがき残しのクセなどを歯科衛生士さんにしっかり教わるようにしましょう」

歯ブラシ一つとっても今はさまざまなタイプがある。自分に合ったものがどれなのかなど、まずはプロに聞く!が効果的なオーラルケアに辿り着く早道。

専門家二人が考える、令和時代のオーラルケアの極意とは?

日々の正しいセルフケアと、定期的なプロフェッショナルケア。この2つが万病のもととなる歯周病を防ぐ唯一の手立てだというのが、二人の一致した見解。天野先生は「歯周病を予防する、進行を止めるのはそんなに難しいことではありません。歯石となる前にプラークを取り除く、この1点につきます。主治医はみなさん自身、口腔内の健康はしっかり自分で守ってください」とオーラルケアの意識をしっかり持つことの大切さをアドバイス。桐村先生は「人生100年時代、全身の健康のため腸内環境は大事。でも腸の前には口がある、体の入り口は口です」と、腸活の一環としての口腔ケアを忘れないでほしい、と加えてくれました。

歯科衛生士に学ぶ、効果的なセルフケアのみがき方。

続いて第二部では、歯科衛生士の重野悠さんが、正しい歯のみがき方をレクチャーしてくれました。まずは、手みがきをする際の歯ブラシの持ち方。「基本は鉛筆を持つような形のペングリップ。余計な力が入りにくく小回りが効くため、毛先が細かく動かせ、きちんと歯に当ててみがくことができます。握力が低下している場合は歯ブラシを手のひら全体で握るパームグリップ。しっかりと持ちやすくなります」

ペングリップ→適度な力で細かくみがける。パームグリップ→安定して持てる。
ペングリップ→適度な力で細かくみがける。パームグリップ→安定して持てる。

ブラッシングにはポイントが2つ。「一つは歯の表面に対して、ブラシを90度に当ててみがくようにして。こちらは虫歯予防に効果的。2つ目は、歯周病予防のため、歯と歯茎の境目にブラシを45度に当てて1本ずつ小刻みに動かして歯周ポケットの汚れをかき出します。いずれも横に優しく細かく動かすことが大切。2種のみがき方を組み合わせることで細かい部分までみがくことができます」

ただ、手みがきは思っている以上にテクニックが必要、口の中はとても複雑なので歯垢除去力が高い電動歯ブラシを取り入れることも効果的とのこと。
どちらでも、自分が取り入れやすい方法で、毎日続けることが何よりも大切。口の中はもちろん、全身のケアにつながる歯みがき。正しいやり方で健康維持に役立てましょう。

  • 天野敦雄

    天野敦雄 先生 (あまのあつお)

    大阪大学大学院歯学研究科 予防歯科学講座 教授

    1984年大阪大学歯学部卒業。同学部予防歯科学教室助手、ニューヨーク州立大歯学部博士研究員、大阪大学歯学部障害者歯科治療部講師を経て、2000年同大学教授。2015年から4年間大阪大学歯学研究科長・歯学部長を務めた。2021年日本口腔衛生学会理事長。難解なバイオロジーを易しく解説する軽妙な語り口が好評を博している。著書に『歯科衛生士のための21世紀のペリオドントロジーダイジェスト増補改訂版』(クインテッセンス出版)『長生きしたい人は歯周病をなおしなさい。』(文春新書)などがある。

  • 桐村里紗

    桐村里紗 先生 (きりむらりさ)

    内科医・認定産業医

    tenrai株式会社 代表取締役。東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻道徳感情数理工学共同研究員。2004年愛媛大学医学部医学科卒業。腸内細菌学や分子栄養療法等を用いた予防医療から生活習慣病、在宅診療まで臨床医療に従事。2018年tenrai株式会社を設立し、プラネタリーヘルスを推進。2022年 東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻道徳感情数理工学 主宰兼共同研究員。著書に『腸と森の「土」を育てる〜微生物が健康にする人と健康』(光文社新書)などがある。

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