隣の住人が気になる!?『隣人さん』│山口恵以子「アプリ蟻地獄」
イラストレーション・勝田 文
これはいわゆるロールプレイングゲーム。出題をクリアするごとにストーリーが進んでゆく。
題名を見ただけでピンとくる方もいらっしゃるかも知れないが、「隣人さん」はスリラー系だ。物音や臭いなど、ちょっと迷惑な隣の部屋の住人の挙動を探るうちに、恐るべき秘密が明らかになってゆく……。
そして更に、イヤミス系でもある。
次々出される設問をクリアして隣人の秘密に近づく過程で、覗き見や盗撮など、こちらも「ちょっとまずいんじゃないですか?」という行為に手を染めてゆくからだ。
読み終わった後に何とも言えない後味の悪さを感じるのがイヤミスの真骨頂なら、ゲームオーバーの後に達成感よりモヤモヤを感じてしまう「隣人さん」は、イヤミス系ゲームの王様かも知れない。イヤミスのお好きな方にはお勧めだ。
実を言うと、私はこのゲームをやりながら、結構リアルな恐怖を感じてしまった。アパート・マンションで暮らしていたら、隣室に“ちょっと変な人”が住んでいる、あるいは引っ越してくる可能性は確実にあるのだから。
夜中にゴミ出しするくらいならまだしも、異臭が漂ってきたらとても耐えられない。まして、異臭の原因がゴミを溜め込んだことではなく“バラバラ死体”だったら!?
「大袈裟ね」と笑っているあなた、つい先日、振り込め詐欺に狙われて危ういところで難を逃れた私は、誰にでも犯罪に巻き込まれる危険があると、声を大にして警告します。
山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。近著に『おばちゃん介護道』(大和出版)
『クロワッサン』993号より
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