可愛い魚に癒やされる?『フィッシュダム』│山口恵以子「アプリ蟻地獄」
イラストレーション・勝田 文
このアプリのキャッチコピーは「夢のアクアリウムを作ろう」。
楽しくハマるゲームに挑戦して、可愛い魚が暮らすアクアリウムをデコレーションしたり、魚に餌をあげて育てたり、ユニークで個性的な魚同士の会話を楽しんだりする、癒やし系のアプリです。
コンセプトは昔流行った“たまごっち”に似ているが、技術の進歩は目覚ましく、装置は比べものにならないほどゴージャスになっている。色鮮やかな総天然色画面に音響効果付き(古い!)だ。
一度閉じたアプリを再び開くと「お帰り、恵以子。君がいなくて寂しかったよ」なんてセリフを魚が言ってくれる。字幕ですが。
我家は母と兄と三匹のDV猫がいてにぎやかだが、孤独な独り者が夜遅く、誰もいない真っ暗な部屋に帰ってきて、スマホの中からお魚さんに「お帰り。寂しかったよ」なんて言われたら、きっと嬉しいだろう。
と、突然思い出したのは銀座のバーのママE子さんのこと。
E子さんは店で金魚を飼っている。丹精の甲斐あって金魚たちは大変長生きで、その分どんどんデカくなった。鯉の親戚くらいまで巨大化した金魚もいる。中の一匹を「恵以子」とネーミングしてくれたので、月に一度は見に行く羽目に……。
一人で切り盛りする店で、お客さんが来るのを待っているE子さんには、あの金魚たちは“リアルフィッシュダム”なのかも知れない。
猫も金魚も、一度飼ったら最期まで大事に育てましょうね。
山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。最新刊『ふたりの花見弁当 食堂のおばちゃん4』(ハルキ文庫)。
『クロワッサン』981号より
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