『七色結び』著者、神田 茜さんインタビュー。「楽しくPTAを知ってもらえる本です。」
撮影・中島慶子
講談師であり作家でもある神田茜さん。本作で主人公にすえたのは、ひょんなことからPTA会長を引き受ける羽目になった、少々お調子者の主婦、鶴子。
「私にも二人子どもがいて、小中高と10年以上、PTA活動に参加しました。執筆のきっかけはモヤモヤを感じた実体験なんです」
なかなかなり手が決まらない気まずい沈黙。他人に押し付けようとするちゃっかりした人。かと思えば、承認欲求を満たそうと妙に張り切る人、そして不合理な約束事……。経験者なら、思わずうなずく事例がちりばめられている。
「当事者だったときは、何も知らずに頑張っちゃったんですが、終わってみると、無理したり、嫌な思いをしてまでやる必要はないんじゃないか、と。私はこうしてネタにできたから回収できましたが(笑)。ただ、天下り組織との疑惑がある教育委員会やPTA連合会に管理されているような現状には疑問を感じていて、将来的には自由参加のボランティア型PTAとなるのが理想的だと考えています」
こう聞くと、なにやら真面目な社会派小説かと思ってしまうが、さにあらず。次々と降りかかるPTA絡みの無理難題に心折れそうな鶴子はご年配キラーのロックミュージシャン、フジマサキの虜になっていくのだ。家族には内緒で、ずぶずぶはまっていく様子のイタいけれどもまあ楽しそうなこと。
「私も好きなライブを目標に仕事を頑張るタイプなので。大変になればなるほど現実逃避したくなるんですよね。PTAの話だけだと暗いので入れたのですが、書いているうちにどんどん興がのって」
このフジマサキ、ライブビューイングとメッセージ動画のみで露出する、謎に包まれた存在なのだが、とにかく、歌が奇天烈で最高。ほうれい線について♪レイホーレイホー♪と歌い上げたり、♪パァステェを茹でるのさ そしてトゥラコとあえてしまうのさ♪と、楽譜はなくとも、ページをめくれば歌声が聞こえてくるかのよう。
「執筆の際は、耳で聞いてもわかるよう、意識して言葉を選んでいます。講談のリズムがしみついているのかも。お客さんを退屈させたくない気持ちも強いんです」
鶴子と同様、密かにフジマサキに熱中しているらしい同居の義母、優しいがのんきな夫、水引作家の友人、PTAを通じて仲良くなった人に仲良くなれない人……様々な人の様々なドタバタと、秘密の数々が明らかになる大団円はまさに、神田さんのサービス精神の賜物。爆笑しつつ読むうちに元気が出ること請け合いの痛快な小説だ。
光文社 1,500円
『クロワッサン』975号より
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