『ラブという薬』著者、いとうせいこうさん+星野概念さんインタビュー。「精神科のことをもっとオープンに話そうよ。」
撮影・尾嶝 太
2人はバンド仲間であると同時に、精神科の患者と主治医でもある。本書は、本来は公にならない診察時のやりとりを披露する試み。軽妙な対話の読みやすい形式で、精神科の治療について、さらには相手や自分を理解することなど、深いテーマが展開されていく。
「診察室で星野君と話していると、これは僕だけじゃなくてたくさんの人の悩みだと思うことが多くて。みんなに聞かせたいと編集者心がうずいたんですよ」(いとうさん)
「1回につき2〜3時間、テーマも決めずに相当な量をしゃべりました。最終的になんのハウツーも結論もないのがいいんですよね。本を書くなら、曖昧なことの大切さを曖昧なまま伝えられたらいいなと思っていたら、1冊目で叶ってしまいました」(星野さん)
ほんわかした表紙のムードもタイトルも、精神科関連の本とは思えないのがまたいい感じ。そもそも、いとうさんが感じていたのは、社会が病んでいるということだ。
「このタイトルのように、医者に行く段階じゃない人にも効く薬がないと、暮らしにくくて困るのよ。街を歩いても、みんなギスギスしていて変に戦闘モードで。それに、精神科に行っていることを秘密にしたいとか、通院を知られたくないから行かないという人はまだたくさんいるけれど、その妙な偏見と頑張りを早く捨ててラクになればいいのにと思う」(いとうさん)
自分に合う医師と出会えるか心配というと、星野さんから一言。
「先生を変えてみる方法もあるけれど、なぜ合わないのかということをその先生に話せるといいなと思います。美容室と似ていると僕は思っているんです。以前、あちこちの美容室を試しても思いどおりの髪型にならずあきらめていたのに、期待せずに入った店の美容師さんがすごくよくて。その時に『頭の形が悪いのを気にしている』と打ち明けたら、そういう悩みを聞いたほうがうまくいくというんですね。同様に『話していて合わない気がする』などと本音を伝えてもらえれば、それを足掛かりに解決する方向に進むことができる」
理想は、もっと率直に精神科のことを話題にできる環境だ。
「あそこの先生はいいよ、なんてね。僕も毎月通っているけれど、深刻に診察を受けている感じはない。話すことがないときは『星野君、どうなの?』と星野君の話を聞こうとしちゃう」(いとうさん)
定期健診的に気軽に通える精神科の掛かりつけ。その存在がちょっとうらやましいと思えてくる。
リトルモア 1,500円
『クロワッサン』975号より
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