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#08 しあわせは、自分のココロが決めるもの@ベルギー

文/写真・とまこ

ドイツのベルリンから電車を乗り継いで7時間。ベルギーのブリュッセルまでやってきた。駅から出ると、ずっしり重いバックパックから解放されたくて、無心でホテルへの最短ルートを歩く。

宿泊した『HOTEL GALERIE』のレセプション。客室も廊下も全体が落ち着いたかわいさで満ちていて、アートギャラリーみたい。http://www.hotelgalerie.de/

宿泊した『HOTEL GALERIE』のレセプション。客室も廊下も全体が落ち着いたかわいさで満ちていて、アートギャラリーみたい。http://www.hotelgalerie.de/

チェックインして4階の部屋に入ると、あれ、部屋がJAZZで満ちてる!? 窓にかけより通りをぞくと、4人のバンドが陽気に演奏中。アーケードだから音響効果もいいのかな、そこら中に音符が弾んで見えるみたい。スウィングが高まると足を止める人も増え……あ、カップルが踊りだした。周りの人もどんどんつられだす。空気がすみずみまで浮かれてて、みんなの陶酔した表情が見える気だってしちゃう。躍動感あふれる街だこと! 気づくと前の建物の窓にも下をのぞいている人が。目があいニコッと手を振りあう。「ハイ!」。

荷物をといたり、カメラなど機材を充電したり。部屋備え付けのまるっとしたマシンで淹れたエスプレッソを片手にステップ踏んで、いつもの作業をノリノリですませると18時過ぎ。さぁおさんぽに行こうかな。北の国の夏は、まだまだ俄然明るいんだ。

ドキドキしながら街をゆく。「わくわく」という未知への期待感より、絶対訪れると確信してるステキな何かへの高揚「ドキドキ」が多めだよ。石畳の道に石造りの渋い建物、それを利用したレトロモダンな酒場、テロンと輝く色っぽいチョコレートが並ぶショップ、優雅な貴婦人ハットのショーウィンドウ。通り過ぎる人々も、道端のカフェテーブルに座る人々も、みーんなにこにこ楽しそう。

通りを撮ってたら、ささっと画角に入ってきてくれた。この街にいる人はみんな、基本浮かれてるんだ(笑)。

通りを撮ってたら、ささっと画角に入ってきてくれた。この街にいる人はみんな、基本浮かれてるんだ(笑)。

おさんぽ中、ワッフルを買ってみた。プレーンは1個€1、ちなみに巨大。むっちむちのもち〜り! 予想を遥かに超える食感はさすが本場、感動! 売り子さんの笑顔もたまらない〜。

おさんぽ中、ワッフルを買ってみた。プレーンは1個€1、ちなみに巨大。むっちむちのもち〜り! 予想を遥かに超える食感はさすが本場、感動! 売り子さんの笑顔もたまらない〜。


こっちの通りではあのバンド、そこを曲がると次のバンド。めくるめく道端ライブに、いちいちボルテージあがって疲れるほど。立ち止まって心酔して、歩いてまた立ち止まって……進むのおそっ(笑)。

まもなく、とんでもない広場に行き当る。四方八方、アンティークでゴージャスな建物に囲まれた、いかにもスゴい所。見上げると、威風堂々の屋根が空をぐるっと取り囲む……迫力! これだけの所だもの、人出もすごい。地面に座ったり寝ころんだりして上空の眺めを満喫する人もいっぱいだ。いいな〜。ヨーロッパの都市の真ん中で、こんな無造作な人々を見るなんて。きどっていて、きどってない、この街が本当に好き!

チェックしたら世界遺産の『グラン=プラス』だった。世界で一番美しい広場とも言われるそうな。最も古い建物の起源は12世紀。このときは一部修復中だったのでネットがかかってるけど(笑)。

チェックしたら世界遺産の『グラン=プラス』だった。世界で一番美しい広場とも言われるそうな。最も古い建物の起源は12世紀。このときは一部修復中だったのでネットがかかってるけど(笑)。

わたしもペタンと座る。思いっきり背中を反らし、空をぐるっと見上げる。いい! 中世の人もこうしたかな。あ、ここを訪れるような優雅な女性はしないか。あばずれ扱い確定だな。昔のドレスは伸縮性悪そうだし、そんなポーズしたら破れるかぁ……想像してひとりでクスッ。

視線を空辺りから下ろすと。あ、絵になる黒人さんトリオ発見! ばきっとしたレゲエな色合いの服を着た、きっとムードメーカーな彼。紫紺の民族衣装がかっこよくきまってる、いい人感たっぷりの男性、サングラスも靴も全身ネイビー大人カジュアルな都会派リーダー格。くつろぐ雰囲気は他の誰たちよりこなれ感たっぷりだし、目を引くなぁ。いかにも欧風でシックな背景と、彼らのまとう陽気でエキゾチックなオーラのコントラストはとっても強くて刺激的。

「ボンジュール! すっごくすてきな雰囲気だから撮ってもいい?」

「もちろんいいよ、かっこよくヨロシク!」

「もちろんいいよ、かっこよくヨロシク!」

いっぱい撮って、一緒に座って、いっぱい話して、いっぱい笑った……故郷はそれぞれ違うアフリカの国なんだね。5年ここに住んでるって長いね。気に入った? そっか、悪くないのね。わたしはひとり旅だよ。今まで? いろんな国に行ったなぁ。うんわかった、写真いっぱい撮って、家族に見せるね……そして3人は口を揃える。

「あんたは世界中を旅してるから、ココロがオープンなんだな」

何度もそう言って、何度もハイタッチしてきた。はじめは、特に意味のあるフレーズとはとらずただ笑って答えてだけど。あんまり繰り返すんだもの、ハッとした。アフリカから移民してきた彼ら、いろいろ大変なんだろうなぁ。確かに今ここでも、彼らに距離をおいてる人がいるのはわかる、残念だけど。

わたしに躊躇なんてありっこなかった。オーラに吸い込まれて話しかけずにいられなかっただけだよ。旅すればするほど、物事の価値基準は国や人により、まるでバラバラだと突きつけられる。正しいなんてどこにもないなと思い知らされる。そんな気づきの繰り返しが、自然にあらゆる壁をとっぱらってくれるのかな。だとしたら、旅の力もなかなかね。

ブリュッセル駅周辺の線路沿いには気合いの入った落書きがいっぱい。一体いつどうやって描くんだろ?

ブリュッセル駅周辺の線路沿いには気合いの入った落書きがいっぱい。一体いつどうやって描くんだろ?

翌日午後、また駅にいた。用事があってディナンという田舎街へと向かうんだ。調べていた電車に乗り込むと、すぐに動き出す。そういえば……乗り換え駅どこだっけ? 地図を取り出して見だすと、近くに座っていた細身のご夫人が立ち上がってわたしの隣に移動、話しかけてきてくれた。以前からの知り合いのように、とってもナチュラルな物腰で、こちらもスッと友だち気分に。行き先を告げると、乗り継ぎ駅と車窓のために座るべき位置などを伝授してくれた。

「わたしも娘が生まれる前は、ひとりであちこち旅してたのよ」

なるほど。自然な手助けは、自分が受けてきたからできるのかもしれないな。そして話題は旅のことに。あそこが好き、あれはおいしかったなど、よくある会話でだんだんと打ち解けた。

車窓には牧歌的なシーンが流れてく。ココロにふわっと風が通リ抜けて行くのを感じる。

車窓には牧歌的なシーンが流れてく。ココロにふわっと風が通リ抜けて行くのを感じる。

「わたしもまた、ひとりで旅に出ようかな。話してて思っちゃった。家族旅行はもちろん好きよ! でも別物よね、ひとり旅って」
話しながら、瞳がキラン。

「そうですね。ぜんぜん違う種類のミラクルが潜んでますよね」
「……海外で挑戦したい夢があるのよ。そうそう、旅してるときは絵を描いて道端で売ってたわ」
「楽しそう! どこを描くのが好きでした?」
「ブエノスアイレスは最高! タンゴダンサーとか、街並とか」
「お子さんはおいくつ? あ、結婚は?」
「10歳よ。結婚はしてるの。でも挑戦とそれは別問題よね。離婚って言われたら……仕方ないわ。そしたら娘は連れて行きたいなぁ」
二人で顔を見合わせて、あはははは〜。
「家族は愛してる、しあわせなのよ。でも、魂にはウソをつけないから……人生って自分のものでしょ」

今、彼女は車窓の遥か向こうを見つめて微笑んでる。たぶん、40代半ばくらいかな。瞳が発する瞳のキラキラはもはや少女マンガ級。すごく、キレイだったな……。

彼女が先に降り、その後で言われた通りに乗り換え、進行方向左側に座る。マース川の車窓を楽しみながらディナンに到着。

ディナン駅から歩いて三分、橋にさしかかる。街を一望……物語みたいな情景にハッ。すっかり魂奪われた。ずっしり重いバックパックが急に存在感を消す。右の黒い奇抜な建物がノートルダム大聖堂。

ディナン駅から歩いて三分、橋にさしかかる。街を一望……物語みたいな情景にハッ。すっかり魂奪われた。ずっしり重いバックパックが急に存在感を消す。右の黒い奇抜な建物がノートルダム大聖堂。

真っ黒なタマネギ型の尖塔のついた奇抜なフォルムの大聖堂、煙突のついたかわいい色の家々、岩肌むきだしの険しい丘……突飛なコラボレーションが、優雅に流れる川沿いに並ぶ、おとぎ話みたいな街だった。さんざんおさんぽして、チェックインしたホテルの部屋に戻ると22時、いよいよ太陽が沈む時間……。世界はあますところなくピンクに。たまたま買ったチェリービールと同じ色だったな。

おとぎ話の世界が、燃えてしまいました。

おとぎ話の世界が、燃えてしまいました。

『Hotel ibis』の部屋で、ベルビュークリークをいただきます。甘酸っぱくて爽やかで、しみじみくる夕陽とはベストマッチ。 http://www.accorhotels.com/ja/hotel-3150-ibis-dinant/index.shtml

『Hotel ibis』の部屋で、ベルビュークリークをいただきます。甘酸っぱくて爽やかで、しみじみくる夕陽とはベストマッチ。
http://www.accorhotels.com/ja/hotel-3150-ibis-dinant/index.shtml


窓辺でひとり味わっていると、電車の彼女の声が蘇る。

「人生って、自分のものでしょ」

しあわせに生きたい。しあわせってなぁに? しあわせに決まりなんてないから、自分がそうと感じるものがしあわせだから。正しいなんてどこにもないから。

そうだ。しあわせは、自分のココロが決めるもの。

取材協力
ベルギー観光局ワロン・ブリュッセル
http://www.belgium-travel.jp/
レイルヨーロッパ ジャパン
http://www.raileurope.jp

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