63歳で花屋さん──荏原温子さん(64歳)“30年来の夢を実現。花の仕事は天職でした”
撮影・太田昌宏 文・保手濱奈美
子どもの頃から植物が好きだったという荏原温子さん。大学では農学部に進むものの、卒業後はSEに。その後も植物とは接点のない日々を送っていたが、結婚、出産を経て、転機が訪れたのは32歳の時だった。
「花屋でアルバイトを始めて、初日に『これが私の天職だ!』と確信したのです。とにかく花に触れている時間が楽しくて、仕事が終わらなければいいと思うほど。そのうち自分で花を仕入れ、花の定期便のようなサービスを始めるようになりました」
いつか自分の店を持ちたいと考えていたが、39歳の時にその夢はいったん途絶えることとなる。
「離婚により、9歳の娘との母子家庭に。生計を立てるにも、花の仕事では自信がなく、断念せざるを得ませんでした。そんななか、花のために取り組んだ色の学びが身を結び、色彩検定1級を取得。同時期にこの検定が公的資格になり、講師養成講座が始まったんです。第1期生として受講して、講師認定を取り、専門学校の講師として新たなスタートを切りました」
その後は講師の仕事と並行して、多肉植物雑貨“コケぴよ”の企画開発に携わるなど、スキルを活かしながら娘の学費を捻出するために奔走。しかし、「花屋を開きたい」という夢は頭から片時も離れなかったそう。
「決心したのは、還暦目前。娘は大学を卒業し、親としての役目は終えている。夢を叶えるには、年齢的に最後のチャンス。後悔したくないという一心で、開業に動き出しました」
準備期間中は親の介護と重なり、なかなか立ち行かないこともあったが、2024年7月末に自宅兼アトリエショップが完成。翌年1月に開店し、63歳で30年来の夢を実現させた。
「お客さまと対面して、大好きな花の魅力を直接伝えられる。回り道をしましたが、今はそのうれしさを日々感じています。開業から1年ほど。経営的にはまだまだですし、そもそも花屋で採算を取るのは難しいとは充分わかっていました。だからこそ長年躊躇していたのですが、開業後は心配より、胸のつかえが取れたような、晴れやかな気持ちでいっぱいです。今後はここで、花を通してみなさんの夢の実現の後押しをする。そんな講座を開きたいと思っています」
荏原さんの人生の転機
20代前半
大学の農学部卒業後、大手総合電機メーカーのSEに。その後、結婚、出産。
32歳
花屋でアルバイト。その後、無店舗の花屋を立ち上げ、週2日活動。自分の店舗を持つことを夢に描く。
39歳
離婚。色彩検定1級を取得後、講師認定をとって専門学校の講師となる。
49歳
経営者の研修会に入会。
56歳
多肉植物雑貨“コケぴよ”の卸売りで娘の大学費用を捻出。
59歳〜
店舗開業に向けた準備を始める。同時期に両親の介護が始まる。
62歳
両親の介護が落ち着く。
63歳
実店舗を開業。30年来の夢が叶う。
『クロワッサン』1158号より
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