作家、エッセイスト・酒井順子さんの、今年心に刺さった本セレクション──今年は“漱石”がプチブーム
優れた物語に触れる時間は、せわしない日常を忘れさせてくれるもの。作家、エッセイストの酒井順子さんに、今年を彩った名作を紹介していただきました。
文・小沢緑子
酒井順子さんの心をとらえたのが、まず『虞美人草』。「年の初めに何となく読み始めましたが、衝撃を受けて夏目漱石のプチブームが到来。初めて読む本や作家も面白いのですが、再読の楽しみはそれ以上かも。今読むと独特の苦味が沁みてきます」。酒井さん自身、老いをテーマにした著書があるが、「『アンチ・アンチエイジングの思想』は、老いへの心構えを問われる書。我々が老いに必死に抗わなくてはならないのは、老いを認めない社会のせい、という事実が浮かび上がります」。『コンパートメントNo.6』は、数年前に感動した映画の原作。「発売されて早速手に取りました。見ず知らずの二人が同じコンパートメントで列車の旅をする。何の共通点もない二人の関係はどう変化するのか。旅へと誘う一冊」
『虞美人草』
夏目漱石 著
傲慢で虚栄心の強い美貌の藤尾と、古風で奥ゆかしい恩師の娘・小夜子との間で揺れ動く主人公の小野。「小野が最後に突きつけられる展開に胸を打たれました」。新潮文庫 605円
『アンチ・アンチエイジングの思想 ボーヴォワール「老い」を読む』
上野千鶴子 著
”老いは人生のスキャンダルである”との言葉に導かれて、ボーヴォワールの『老い』への探求が始まる。さらにその先に進み、見えてきた景色とは? みすず書房 2,970円
『コンパートメントNo.6』
ロサ・リクソム 著 末延弘子 訳
カンヌ国際映画祭グランプリを獲得した映画の原作。ソ連崩壊直前、シベリア鉄道に偶然乗り合わせた少女と出稼ぎに行く男の旅を描くロードノベル。みすず書房 3,630円
『クロワッサン』1155号より
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