『柚木沙弥郎 永遠のいま』東京オペラシティ アートギャラリー ──染色家、柚木沙弥郎の愛すべき布と造形
青野尚子のアート散歩。今回は、101歳の長寿をまっとうした染色家、柚木沙弥郎の75年に及ぶ創作活動を振り返る展覧会『柚木沙弥郎 永遠のいま』。展覧会タイトルの「永遠のいま」は過去や未来にとらわれることなく、いまこの瞬間に好奇心あふれる眼差しを向けた柚木の姿を思わせる。
文・青野尚子
昨年、101歳の長寿をまっとうした染色家、柚木沙弥郎(ゆのき・さみろう)。ユーモアあふれる造形と愛らしい色あいで私たちを楽しませてくれた。その彼の75年に及ぶ創作活動を振り返る展覧会が開かれる。
柚木は1922年、洋画家の父のもと東京に生まれた。戦後、大原美術館に就職した彼は芹沢銈介の型染カレンダーを始めとする民藝と出会う。芹沢のもとで染色の基礎を学んだ柚木は浴衣や暖簾はもちろん、カーテンなど洋風の暮らしにも合う布を生み出す。1980年代には型染の布だけでなく版画やガラス絵、立体造形など幅広い表現に取り組んだ。
柚木は旅を愛した作家でもある。民藝と出会った岡山県、青春を過ごした長野県、芹沢の勧めで染色修業を始めることになった静岡県、憧れの詩人・宮沢賢治の故郷である岩手県など国内はもちろん、インドやパリでの体験は彼の創作に大きな影響を与えた。会場にはそれらの旅をめぐる作品や資料も並ぶ。
晩年の柚木はユーモアを込めて「物心がついたのは80歳になってから」と語った。実際に彼は2000年代以降、インテリアショップでの展示やカフェ、ホテルのための制作などを通じて若い世代と積極的に交流を重ねる。展覧会タイトルの「永遠のいま」は過去や未来にとらわれることなく、いまこの瞬間に出会う人や身の回りにあるものに好奇心あふれる眼差しを向けた柚木の姿を思わせる。見るものの「いま」を彩る作品の数々に出会える。
『柚木沙弥郎 永遠のいま』
東京オペラシティ アートギャラリー 開催中~12月21日(日)
会場には亡くなる2カ月ほど前に手がけた紙のコラージュ作品も並ぶ。旅先でのスケッチや水彩画、アルバムなども興味深い。
東京オペラシティ アートギャラリー(東京都新宿区西新宿3-20-2) TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル) 11時~19時 月曜(11月3日、11月24日は開館)、11月4日、11月25日休 入館料一般1,600円ほか
『クロワッサン』1152号より
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