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『女王様の電話番』渡辺 優 著──世間の“常識”に馴染めない女性の葛藤

文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。

文・瀧井朝世

『女王様の電話番』 渡辺 優 著 集英社 1,980円
『女王様の電話番』 渡辺 優 著 集英社 1,980円

とある理由で会社を辞めた志川が見つけたアルバイトは、性風俗店の電話番だった──というあらすじ説明では、この小説の良さは伝わらない。これは、世間でスタンダードとされる価値観になじめない女性が、右往左往しながら自分を受け入れていく物語である。

志川が馴染めないのは、何事も男女の恋愛に結び付けられがちな世の中の風潮だ。彼女は誰かを好きだと思うことはあっても、性行為には拒否感がある。アセクシャルという言葉は知っているが、自分がそれに該当するのか分からない。だが、バイト先で親しくなった女王様の美織さんが失踪し、心配して探し始めるなかで、少しずつ自分を見つめ直していく。

志川に限らず、また、恋愛関係のことに限らず、「自分の感覚は世間からずれているのかも」と感じることは多くの人にあると思う。誰かの独自の基準を押し付けられてうんざりしたこともあるだろう。一方で、自分も誰かに同様の押しつけをしているかも、とわが身を振り返る。“分かり合えなさ”のなかで、私達にできることはなにか。

最後は美織さんに持っていかれた。すごいですこの人。価値観のグラデーションが広がる今の世の中において、読んでよかった一冊。

  • 瀧井朝世 さん (たきい・あさよ)

    ライター

    著書に『ほんのよもやま話〜作家対談集〜』『偏愛読書トライアングル』など。

『クロワッサン』1152号より

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