日本全国、手仕事の現場を訪ねて──亀の子束子 西尾商店(和歌山県紀の川市)
撮影・岡本佳樹 文・大和まこ
100年を超えて変わらない姿と技の完成形
松下幸之助による二股ソケット、石橋正二郎によるゴム足袋、そして西尾正左衛門による亀の子たわしは、日常の暮らしを便利にした日本三大発明ともいわれる日用品。そのひとつ、亀の子たわしは「亀の子束子西尾商店」初代の西尾正左衛門が明治40年に生み出したもの。そもそも正左衛門は棕櫚を針金で編んだ靴拭きマットを考案したものの、特許が取れず売れ行きも低迷。妻が返品された商品の棕櫚を巻いた棒を使い、折り曲げて掃除する様子から発想し、素材をパームに替えて作りあげたのが亀の子たわし。息子が飼っていた亀の姿に似ていること、長寿で縁起がよく、水にも縁があることから亀の子と名付けた。以来、一世紀を超えてなお愛されるロングセラーだ。
「亀の子束子西尾商店 和歌山工場」で作られているのは、細くてコシのある繊維、棕櫚を使ったたわし。その製法は明治時代から変わらず、工程のほとんどが今も手仕事で行われている。原料となる棕櫚は、厳選されたものとはいえあくまでも天然の植物繊維。たわし作りは太さや質の異なる繊維を整え、断裁することから始まる。次に芯となる針金を折り曲げ、その間に棕櫚を隙間なく挟み込んでいく。「高品質なたわしを作るには均等に、そして高い密度で詰めることが重要。さらに曲げたときに、たわしの先端になる中央部にはひときわ上質な繊維を置く。この匙加減が機械ではできないのです」と製造部の関谷紀男さん。棕櫚を挟んだ針金は、ハンドルを使って素早く巻き上げ棒状に。「一つとして同じ繊維はないので、集中力と根気が必要です。1日に巻けるのは約200本。継続してやり続けないと、技術はすぐに落ちてしまいます」と15年のキャリアを持つ職人、山本朋彰さんは言う。
棒状になったたわしは次に唯一の機械工程である刈り込み機に通され、繊維の長さを均等に。仕上げはたわしを亀の子の形に曲げ、繊維をしっかり立ち上げるため縄をかけ、針金を切り揃えて留める。シンプルながら職人技が凝縮された亀の子たわし。100年を超えて変わらない姿に、ひとつのプロダクトとしての完成形を見るようだ。
亀の子束子西尾商店本店
東京都北区滝野川6-14-8 TEL:03-3916-3231 https://shop.kamenoko-tawashi.co.jp 購入はオンラインショップなどで。亀の子たわしは棕櫚のほか、定番のココナッツ繊維を使ったパーム、柔らかなサイザル麻なども。
『クロワッサン』1151号より
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