京都の老舗で探す価値あるおみやげ──かつての木版画という印刷の魅力を今に伝える版元「芸艸堂」へ
撮影・吉村規子 構成&文・堀越和幸
京都市役所の程近くに社屋を構える『芸艸堂』は、今も手摺木版の本を刊行し続けている唯一の出版社だ。江戸時代の本といえば手摺の紙を和綴じで編まれるものが主流だった。それが幕末から明治にかけて機械印刷が日本に入ってくると、手摺木版は衰退し、やがて大量印刷に取って代わられた。『芸艸堂』が創業したのは、ちょうどその端境期にあたる明治24(1891)年だ。
「木版画の技術は明治時代がピークで職人さんもいっぱいいました。が、カラー印刷の登場でその技術は止まってしまった。多くの同業者が木版画から活版印刷にシフトする中で、私たちが木版画にこだわることができたのは京都だからという事情がありました」(『芸艸堂』代表取締役社長・山田博隆さん)
京都は昔から工芸品や織物が盛んだが、『芸艸堂』がひいきにしてもらっていたのは特に呉服屋さん関連だった。
「染織業には着物に柄をつける図案家さんがいますが、その図案家さんが、私たちの作る図案見本を重宝してくれました。カラー印刷も出回りましたが、木版画の色のほうがインスピレーションが湧くと、一冊5万〜6万円もする高価な本を買い続けてくれたんです」
江戸時代の絵師、葛飾北斎が描いた代表的な版本。人物、風俗、動植物、妖怪などその図柄は三千数百に及ぶ。現代の摺師たちが1年をかけて全15巻を摺り上げた。33万円
夭逝した天才デザイナー、古谷紅麟による一冊。松竹梅の図案52図を収録。『花づくし―松竹梅―』。4万1800円
浮世絵ブームがやってきて、木版画に再び脚光が当たる
同業者が廃業したりカラー印刷に移行する中で、木版画の美しさにこだわる『芸艸堂』は用無しとなった他社の版木を次々に買い取った。その中には江戸時代に出版された葛飾北斎の『北斎漫画』なども眠っていた。
「バブル不況を迎えて染織業界が厳しくなっても私たちが生き残れてきたのは、並行してインテリア用の版画を手がけたことも大きかったと思います」
折からの浮世絵ブームでここ数年は市場が沸いている。
「今では数少ない職人の彫師や摺師の手作業が生み出す木版画は本当に美しいです。ぜひ現物を見てください」
店内にディスプレイされた木版画や絵葉書の数々。古い作品だけではなく、近年は笠松紫浪や川瀬巴水らの“新版画”もブームになっている
訪れたらこんなお土産をチェック!
芸艸堂
芸艸堂の「芸艸」とはミカン科の多年草のこと。明治の文人画家、富岡鉄斎が命名した。
『クロワッサン』1150号より
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