鎌倉の名店で、老舗が繋ぐ大切なモノ・コトに触れる──そぞろ歩けば街の人たちに愛される店がいっぱい
撮影・砂原 文 文・北條尚子
鎌倉
鎌倉といえば南側は海に面し、ほか三方を山に囲まれた土地。古い歴史があり、神社仏閣を有する観光地としての側面と、古くから文豪たちや避暑客、住人が鎌倉らしいカルチャーを育んできた古都だ。海と山の間をぬうように走る江ノ電に乗って、時代を超えて愛されてきた老舗を訪ねながら、鎌倉の魅力を肌で感じてみよう。
スタートは鎌倉駅東口から。駅にいちばん近い鳥居をくぐって賑やかな小町通りへ。横道に入ったところにあるのが、鎌倉最古の中国料理店『二楽荘(にらくそう)』だ。顧客だった大佛次郎の『大佛次郎 敗戦日記』にも何度も登場した文豪たちお気に入りの店。昭和初期に店主が上海から料理人を招いた縁で、いまも上海風の〈えびの汁そば〉が人気。ランチタイムにちょうどいい一品だ。
[小町]中国料理 二楽荘
鎌倉文士の社交場として愛された老舗中国料理店
かつて川端康成や大佛次郎、里見弴(とん)など多くの作家が住んでいた鎌倉。そんな鎌倉文士が集った『二楽荘』は昭和9年開業の中国料理店。文士たちが必ず持ち帰った名物〈花シュウマイ〉は当時と変わらず大人気。小町通りの喧騒から離れ、ゆったりと食事できる場所だ。
お次は農協連即売所、通称レンバイへ。朝採れ鎌倉野菜や新鮮なハーブなどを購入するのも楽しいひととき。ファーマーズマーケットの奥には個性的な店が集まり、その一軒が『邦栄堂商店』。老舗の製麺所の直売所で、毎日できたての生麺が届く。鎌倉市内の中華料理店への卸元としてだけでなく、市民にとってもなじみ深い専門店だ。
[小町]邦栄堂商店(鎌倉市農協連即売所店)
40年前の機械を受け継ぎ、麺作りを続ける製麺所
昭和28年に大町で創業した『邦栄堂製麺』は、中華麺や蕎麦など麺類や餃子の皮を作ってきた。3代目の関康さんは今年、直売所『邦栄堂商店』をレンバイ内にオープン。工場直送の打ち立ての生麺は中華麺からパスタまで揃い、和え麺の素、週末限定の焼きそばも買える。
駅に戻って江ノ電に乗車し、2つ目の由比ヶ浜駅で下車。駅からすぐの『鈴木屋酒店』は一見すると古い街の酒屋だが、ドアを開けると店内がまるでワインセラー。年間を通して15℃に保たれている。地元のシェフやワイン愛好家がいつでも最適なワインを選べる場所でありたい、と店主。ワイン情報やアドバイスが聞けるのもうれしい。
[由比ガ浜]鈴木屋酒店
飲みたい自然派ワインが必ずある街のワインセラー
由比ガ浜で100年以上続く『鈴木屋酒店』は、代々地元密着の街の酒屋。4代目の兵頭昭さんが店を引き継ぎ、30年前にナチュラルワインと出合ったことから、鎌倉のワイン文化を牽引する存在になった。ワイン愛好家だけでなく湘南エリアのシェフの信頼も厚い。
もう一度江ノ電に乗ったら、隣の長谷駅で下車。海方面に歩くと『三留(みとめ)商店』がある。お酒から様々な輸入食品、地元鎌倉の名品が並び、まるで海外のグローサリーのよう。舌の肥えた人たちが信頼する食材店であり、鎌倉らしい手土産も選べる。そして、時間があるなら店主夫妻おすすめの「成就院」まで足を延ばし、鎌倉の街並みと海に臨む眺望を目に焼き付けて帰るのはいかがだろう。
[坂ノ下]三留商店
世界各地の美味をセレクト。食通たちが通い詰める店
明治15年、現在の場所に飴屋として創業。食道楽だった3代目が各地の美味珍味を売り始め、その後、別荘客や保養所からの注文で輸入食材も置くようになった。作家の向田邦子が愛した梅干しや、俳優の中井貴一さんおすすめの塩など、個性溢れる品揃えを誇る。
『クロワッサン』1150号より
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