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鎌倉の名店で、老舗が繋ぐ大切なモノ・コトに触れる──そぞろ歩けば街の人たちに愛される店がいっぱい

老舗がひしめく鎌倉。お散歩気分で歩いてみると、新しい取り組みもしながら心意気は変わらない、そんな老舗の姿に触れられました。

撮影・砂原 文 文・北條尚子

鎌倉

鎌倉といえば南側は海に面し、ほか三方を山に囲まれた土地。古い歴史があり、神社仏閣を有する観光地としての側面と、古くから文豪たちや避暑客、住人が鎌倉らしいカルチャーを育んできた古都だ。海と山の間をぬうように走る江ノ電に乗って、時代を超えて愛されてきた老舗を訪ねながら、鎌倉の魅力を肌で感じてみよう。

スタートは鎌倉駅東口から。駅にいちばん近い鳥居をくぐって賑やかな小町通りへ。横道に入ったところにあるのが、鎌倉最古の中国料理店『二楽荘(にらくそう)』だ。顧客だった大佛次郎の『大佛次郎 敗戦日記』にも何度も登場した文豪たちお気に入りの店。昭和初期に店主が上海から料理人を招いた縁で、いまも上海風の〈えびの汁そば〉が人気。ランチタイムにちょうどいい一品だ。

川端康成や大佛次郎が、会食の〆の一杯で決まって食べた、上海風汁麺〈えびの汁そば〉を今でも食せる。2,500円
川端康成や大佛次郎が、会食の〆の一杯で決まって食べた、上海風汁麺〈えびの汁そば〉を今でも食せる。2,500円
名物〈花シュウマイ〉。普通より大ぶりで黒豚のうまみが凝縮。2個580円
名物〈花シュウマイ〉。普通より大ぶりで黒豚のうまみが凝縮。2個580円
創業当時のメニュー。既に素菜(そさい/ベジタリアン)コースがあって驚かされる
創業当時のメニュー。既に素菜(そさい/ベジタリアン)コースがあって驚かされる
名物〈花シュウマイ〉。普通より大ぶりで黒豚のうまみが凝縮。2個580円
創業当時のメニュー。既に素菜(そさい/ベジタリアン)コースがあって驚かされる

[小町]中国料理 二楽荘

鎌倉文士の社交場として愛された老舗中国料理店
かつて川端康成や大佛次郎、里見弴(とん)など多くの作家が住んでいた鎌倉。そんな鎌倉文士が集った『二楽荘』は昭和9年開業の中国料理店。文士たちが必ず持ち帰った名物〈花シュウマイ〉は当時と変わらず大人気。小町通りの喧騒から離れ、ゆったりと食事できる場所だ。

神奈川県鎌倉市小町2-7-2 二楽荘ビル 3階 TEL:0467-22-0211 (営)11時~14時30分、17時~21時(ラストオーダーは19時) 不定休
店は昨年リニューアル。旧店舗の家具に風格を感じる
店は昨年リニューアル。旧店舗の家具に風格を感じる

お次は農協連即売所、通称レンバイへ。朝採れ鎌倉野菜や新鮮なハーブなどを購入するのも楽しいひととき。ファーマーズマーケットの奥には個性的な店が集まり、その一軒が『邦栄堂商店』。老舗の製麺所の直売所で、毎日できたての生麺が届く。鎌倉市内の中華料理店への卸元としてだけでなく、市民にとってもなじみ深い専門店だ。

店のロゴをデザインしたイラストレーターの横山寛多さんが、壁にじかに書いたメニューがかわいい
店のロゴをデザインしたイラストレーターの横山寛多さんが、壁にじかに書いたメニューがかわいい
“できたての生麺を持ってきました”──「なじみの個人商店が残る街を守りたい」と店を継いだ3代目の関さん
“できたての生麺を持ってきました”──「なじみの個人商店が残る街を守りたい」と店を継いだ3代目の関さん
中華麺だけで5種類。1袋160円。手打ちのような食感の生パスタも人気
中華麺だけで5種類。1袋160円。手打ちのような食感の生パスタも人気
“できたての生麺を持ってきました”──「なじみの個人商店が残る街を守りたい」と店を継いだ3代目の関さん
中華麺だけで5種類。1袋160円。手打ちのような食感の生パスタも人気

[小町]邦栄堂商店(鎌倉市農協連即売所店)

40年前の機械を受け継ぎ、麺作りを続ける製麺所
昭和28年に大町で創業した『邦栄堂製麺』は、中華麺や蕎麦など麺類や餃子の皮を作ってきた。3代目の関康さんは今年、直売所『邦栄堂商店』をレンバイ内にオープン。工場直送の打ち立ての生麺は中華麺からパスタまで揃い、和え麺の素、週末限定の焼きそばも買える。

神奈川県鎌倉市小町1-13-10 鎌倉中央食品市場内 (営)9時30分~15時頃(売り切れ次第閉店) 月・火曜休 インスタグラム:@houeidou.shouten
毎日近隣の畑から届く鎌倉野菜直売所の奥に店がある
毎日近隣の畑から届く鎌倉野菜直売所の奥に店がある

駅に戻って江ノ電に乗車し、2つ目の由比ヶ浜駅で下車。駅からすぐの『鈴木屋酒店』は一見すると古い街の酒屋だが、ドアを開けると店内がまるでワインセラー。年間を通して15℃に保たれている。地元のシェフやワイン愛好家がいつでも最適なワインを選べる場所でありたい、と店主。ワイン情報やアドバイスが聞けるのもうれしい。

“心地のいいワインに出合ってほしいね”──信頼のおける輸入元に絞って世界中のワインをセレクト
“心地のいいワインに出合ってほしいね”──信頼のおける輸入元に絞って世界中のワインをセレクト
おすすめは、ポルトガルの〈ジスコ・ボアドール・ブランコ2023〉 750ml 3,300円(左)、ロワール地方の〈フランソワ・サン・ロ・ヘイGG2023〉 750ml 4,700円(右)
おすすめは、ポルトガルの〈ジスコ・ボアドール・ブランコ2023〉 750ml 3,300円(左)、ロワール地方の〈フランソワ・サン・ロ・ヘイGG2023〉 750ml 4,700円(右)

[由比ガ浜]鈴木屋酒店

飲みたい自然派ワインが必ずある街のワインセラー
由比ガ浜で100年以上続く『鈴木屋酒店』は、代々地元密着の街の酒屋。4代目の兵頭昭さんが店を引き継ぎ、30年前にナチュラルワインと出合ったことから、鎌倉のワイン文化を牽引する存在になった。ワイン愛好家だけでなく湘南エリアのシェフの信頼も厚い。

神奈川県鎌倉市由比ガ浜3-6-19  TEL:0467-22-2434 (営)10時~18時 月曜・第3日曜休、そのほか不定休あり
入り口は、看板を前に右手。店内にはワインが数千本
入り口は、看板を前に右手。店内にはワインが数千本

もう一度江ノ電に乗ったら、隣の長谷駅で下車。海方面に歩くと『三留(みとめ)商店』がある。お酒から様々な輸入食品、地元鎌倉の名品が並び、まるで海外のグローサリーのよう。舌の肥えた人たちが信頼する食材店であり、鎌倉らしい手土産も選べる。そして、時間があるなら店主夫妻おすすめの「成就院」まで足を延ばし、鎌倉の街並みと海に臨む眺望を目に焼き付けて帰るのはいかがだろう。

“このあたり、今も昔も漁師町なんですよ”──4代目店主の三留一男さんと妻の昭代さん。長谷~坂ノ下近辺の散歩コースや鎌倉らしい手土産の相談も、ぜひふたりに
“このあたり、今も昔も漁師町なんですよ”──4代目店主の三留一男さんと妻の昭代さん。長谷~坂ノ下近辺の散歩コースや鎌倉らしい手土産の相談も、ぜひふたりに
店内には約1000種類の「おいしいもの」がぎっしり。高級パスタの〈マルテッリ〉を筆頭に、特にイタリア食材が充実
店内には約1000種類の「おいしいもの」がぎっしり。高級パスタの〈マルテッリ〉を筆頭に、特にイタリア食材が充実

[坂ノ下]三留商店

世界各地の美味をセレクト。食通たちが通い詰める店
明治15年、現在の場所に飴屋として創業。食道楽だった3代目が各地の美味珍味を売り始め、その後、別荘客や保養所からの注文で輸入食材も置くようになった。作家の向田邦子が愛した梅干しや、俳優の中井貴一さんおすすめの塩など、個性溢れる品揃えを誇る。

神奈川県鎌倉市坂ノ下15-21  TEL:0467-22-0045 (営)10時~18時 火・水曜休
40年前に誕生したオリジナル商品。切った野菜を漬けるだけの、〈ピクルスビネガー〉と、10種類以上の漢方とドライハーブ入りのフライ専用〈薬膳ソース〉 各600円
40年前に誕生したオリジナル商品。切った野菜を漬けるだけの、〈ピクルスビネガー〉と、10種類以上の漢方とドライハーブ入りのフライ専用〈薬膳ソース〉 各600円
鎌倉を巡るならぜひ江ノ電で。山に海に駆け抜け、鎌倉の風景を存分に楽しめる
鎌倉を巡るならぜひ江ノ電で。山に海に駆け抜け、鎌倉の風景を存分に楽しめる

『クロワッサン』1150号より

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