古橋織布──旧式の織機で織るからこその、風合いを生かした遠州織物の服作り
撮影・黒川ひろみ 構成&文・中條裕子
古橋織布(ふるはししょくふ)
曽祖父の代から続く織り屋の仕事を、古橋佳織理さんが受け継いだのは3年前。ブラウスやシャツ、パンツといった洋服のための生地作りを浜松の地で続けて、まもなく創業100年を迎える。
「洋服のブランドがトップレベルであっても、その生地については一般の方にあまり知られていないのが日本の繊維産業の現状なのかなと思います」
と、古橋さん。確かに、服に使われている生地がどこでどのように作られたものか、意識することはあまりない。が、実は世界で評価される日本の繊維産地の中でも、江戸時代から綿花栽培が盛んで遠州織物の産地として知られてきたのが古橋織布のある浜松。
「今ではほとんど綿花を栽培してはいませんが、世界中に上質な銘柄のコットンがある中、選りすぐりのものを使って生地作りをしています。たとえば、薄い生地作りに使う細番手という糸であれば、インドやエジプトだったりが有名。そうした糸で、シャトル織機を使い、生地を織り上げています」
古橋さんの工場で稼働している20台のシャトル織機は、50年前のもの。現在は製造されておらず、世界でも希少となっている。アナログな部分も多いため、扱いが難しいのだという。
「最新の機械は、シャトル織機の10倍の速さで織り進めていきます。けれども、そうした高速ではできない生地作りがシャトル織機はできるんです。低速の利点は糸に負担をかけず、ふっくらと織り上げるところ。糸が波打った形になるため、織り上がった生地に肉感があって、それが着心地のよさに繋がっているといわれています。うちはこのシャトル織機にこだわって、生地作りをしてきました」
手間暇かかる分だけ、できあがった生地は触れば違いがわかる、と古橋さん。細い糸を高密度にゆっくり織り込むことで、薄くとも張りがあってふっくらとした生地となっている。
服作りのプロたちとコラボした、ファクトリーブランドを始動
そんな古橋織布をはじめとする遠州織物の生地の魅力が近年徐々に認知されるようになってきた。そのひとつの要因として、〈HUIS―ハウス―〉というブランドとの出合いにあった。
「10年ほど前、当時、市役所に勤めていた松下昌樹さんがうちに来てくださって。シャトル織機で織り上げた生地のよさを日本中に知ってほしいと、それに特化したブランドを立ち上げたんです」
上質な日常着をテーマにした服作りで知られる〈HUIS〉の成長とともに、遠州織物も多くの人に知られるようになってきたという。そうしたことをきっかけに、古橋さん自らも自社の生地の魅力を伝えるべく、ファクトリーブランドを立ち上げることとなった。
「年齢や性別に関係なく着てもらえる、シンプルな服を心がけています」
今は古橋織布の生地作りに共感したパタンナーや縫製工場など服作りのプロたちとコラボしたシリーズ企画の〈ORIYATO〉が、注目を集めているところ。生地の特性を生かした縫製や細部までこだわったデザインが評判となり、ファッションインフルエンサーの金子敦子さんも愛用しているということで知る人も増えてきている。
「着まわししやすいアイテムを増やしていけたらと思っています。たとえばウィーバーパンツは、職人の作業着を作りたいという企画から出発したので、腰の部分以外は生地が直接体に当たらず、すっきりと動きやすい仕様になっている。今、企画中なのがオーバーシャツ。ユニセックスにも着てもらえるように試作を重ねています」
効率にとらわれない丁寧な物作りが多くの人たちに共感され、支持されてきた古橋織布の生地。シンプルでありながら、ほかにはない技術が詰まった服がまた誕生してくるのが待ち遠しい。
ここから新展開も!
〈HUIS〉 オーナー・松下昌樹さんが古橋織布の生地と出合い、“日々の暮らしに馴染む上質な普段着”をテーマにオリジナルブランド〈HUIS〉が誕生。シャツやワンピースなど、高い耐久性と風合いのよい生地を贅沢に使った、長く愛用できるシンプルな服作りに定評が。現在は渋谷に旗艦店を構えるほか、丸の内、立川、横浜、名古屋、豊橋にショールームがある。
『クロワッサン』1150号より
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