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進化を続ける江戸の伝統「そば」、将軍から長屋の庶民まで魅了した「うなぎ」──江戸前の美味と心意気を求めて

せっかちで手早く食べたいけれど旬や味にはめっぽううるさい。そんな江戸っ子に愛され受け継がれてきた食を、往時の粋を伝える街で体感!

撮影・上原未嗣 文・日高むつみ

そば

屋台に始まり手軽さとスピード感から江戸中期に爆発的に普及。箸で数本手繰ったそばをキリッと濃いつゆに先端だけ浸して一気に啜り、喉で味わう。これが粋を尊ぶ江戸っ子の作法。

〈せいろそば〉900円。緑がかった色合いは玄そばが新鮮で上質な証拠だ
〈せいろそば〉900円。緑がかった色合いは玄そばが新鮮で上質な証拠だ

江戸蕎麦手打處 あさだ(浅草橋)

創業は黒船来航の頃。進化を続ける江戸の伝統
幕末期、穀物商を営んでいた初代が店を構えて170余年、8代目の粕谷育功さんが店を受け継ぐにあたり、つなぎを用いない十割そばに原点回帰。石臼で毎朝自家製粉し、練り・伸(の)し・切りのすべてを高度な技術を要する手作業に切り替え、生地を四角くなるよう巻き取りながら伸す江戸職人独自の技も体得した。
殻をはずしたそばの実を丸ごと使う挽きぐるみながら、みずみずしく喉越しがよいのは、そばの挽き加減に工夫したから。きめ細かい粉と粗めの粉に挽き分けて配合したおかげだ。つゆの出汁は江戸伝統の本枯れ節一択。表面を炙り厚手に削った焼き節を使うことで、深いコクとシャープな香りを引き出した。そこに加えるかえしは、関東の濃口醤油ならではの風味とまろやかさを兼ね備える。せいろに盛られたそばを手繰り終えて感じるのはすっきりとした潔さ。野暮を嫌う江戸っ子らしい味わいだ。

〈あさだ味噌杉板焼〉900円、〈合鴨塩焼〉1,600円。そばの前に酒肴を楽しむ「そば前」文化を体感。日本料理店の名店で修業した8代目ならではの料理も多数
〈あさだ味噌杉板焼〉900円、〈合鴨塩焼〉1,600円。そばの前に酒肴を楽しむ「そば前」文化を体感。日本料理店の名店で修業した8代目ならではの料理も多数
国内の産地から玄そばを仕入れ真空保存。鮮度を保ち挽きたて打ちたてを提供
国内の産地から玄そばを仕入れ真空保存。鮮度を保ち挽きたて打ちたてを提供
江戸通り沿いの落ち着いた空間
江戸通り沿いの落ち着いた空間
台東区浅草橋2-29-11  TEL:03-3851-5412 (営)11時30分〜14時LO、17時30分〜20時50分LO(土曜19時50分LO) 日・月曜、祝日休 https://asada-soba.co.jp

うなぎ

上方の腹開きは切腹を連想させると、武家の町・江戸では背開きが基本。房総生まれの濃口醤油と味醂を合わせたタレで照りよく焼き上げた蒲焼きは、将軍から長屋の庶民まで魅了した。

火傷しそうな熱さの中、一生勉強といわれる焼きの技が伝授される
火傷しそうな熱さの中、一生勉強といわれる焼きの技が伝授される

伊豆榮 本店(上野)

不忍池のほとりで300余年、9代守り伝えた技と味
重箱の蓋を開けた瞬間、艶やかさに息を呑む。「この艶は食べ手だけが目にできる一瞬の輝き」と語るのは、9代目女将の土肥好美さん。代々受け継がれたタレは濃口醤油と味醂を配合し、長い歳月をかけて注ぎ足しと熟成を重ねたもの。砂糖を一切使わないため蓋を開けると照りは飛んでしまうが、その分さっぱりとキレがよい。しかも白焼きをいったん蒸してからタレに潜らせ焼き上げることにより、余分な脂がほどよく落ちる。こうしてコクや旨味は豊かなのにくどくない、スッキリした江戸好みの味に仕上がるのだ。

パリッと香ばしいうえ舌の上で柔らかくほどける蒲焼き、何代にもわたり鰻の旨味が染み込んだタレ、そのタレを纏ったつやつやのごはん。この完成された味わいは創業の地で300年、戦禍や震災も越えて職人の手から手へ受け継がれた技の賜物だ。時代は変われど揺らぐことはない。

〈うな重 竹〉5,060円
〈うな重 竹〉5,060円
蒲焼きを芯に巻いた、ふっくら〈うまき〉2,300円
蒲焼きを芯に巻いた、ふっくら〈うまき〉2,300円
刀の柄巻師(つかまきし)にして武士だった初代が、不忍池を一望できるこの地で屋台から創業。天保年間には歌川国芳の錦絵にも描かれた。蒲焼きは昭和天皇も愛顧の品。保温機能のある銅壺で皇居へ届けられた
刀の柄巻師(つかまきし)にして武士だった初代が、不忍池を一望できるこの地で屋台から創業。天保年間には歌川国芳の錦絵にも描かれた。蒲焼きは昭和天皇も愛顧の品。保温機能のある銅壺で皇居へ届けられた
台東区上野2-12-22  TEL:03-3831-0954 (営)11時〜20時15分LO 無休 平日15時〜16時30分はうな重と蒲焼きのみ。個室以外の一般席は1カ月前から予約可。https://izuei.co.jp

『クロワッサン』1145号より

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