【浮世絵を手がかりに巡る風景】桜田門、吉良邸、隠亡堀──当時話題となった、物語や事件の現場
浮世絵を手がかりに、小説家・梶よう子さんと太田記念美術館 上席学芸員・渡邉 晃さんが巡る風景。今回は、かつて江戸で注目された物語や事件の舞台となった桜田門、吉良邸、隠亡堀の3カ所を訪ねた。
撮影・青木和義 文・嶌 陽子 構成・中條裕子
浮世絵好きで、絵師や摺師を題材にした作品をたびたび発表している小説家の梶よう子さん。そこで今回、浮世絵に描かれた風景に出合う散歩に出かけることに。案内役は浮世絵専門の美術館、太田記念美術館の学芸員である渡邉晃さんだ。
今は静かな時間が流れる場所も、かつては世間が注目した出来事の舞台だった。「江戸っ子たちは瓦版や歌舞伎などで情報を得て、驚いたり興奮したりしたのでしょう」と梶さん。浮世絵からも当時の雰囲気が伝わってくる。
歌川広重「名所江戸百景 外桜田弁慶堀糀町」
歌川広重「忠臣蔵 夜討」
吉良邸(墨田区両国/本所松坂町公園)
江戸っ子たちを熱狂させた『忠臣蔵』の世界
江戸中期・元禄に起こった赤穂事件は後年、歌舞伎や人形浄瑠璃の人気作『仮名手本忠臣蔵』になった。「この絵は歌舞伎のワンシーンですが、顔の描き方などで史実だと感じられるような雰囲気を出しています」(渡邉さん)。吉良上野介の屋敷跡の一部は現在公園に。家の格式を表すなまこ壁と黒塗り門が再現され、当時を偲ばせる。
歌川国貞(三代豊国)「東海道四谷怪談」
隠亡堀(江東区扇橋〜北砂)
見る人を震え上がらせた、名作怪談の舞台へ
四世鶴屋南北作の歌舞伎『東海道四谷怪談』。お岩の夫・民谷伊右衛門が隠亡堀に流れ着いた戸板をひっくり返す場面。男の死骸が打ち付けられた戸板の部分の紙をめくると、お岩の死骸が現れる。歌舞伎の演出を再現した仕掛け。隠亡堀は、現在の江東区・横十間川親水公園内にある岩井橋付近。岩井橋の名前の由来はお岩とされている。
『クロワッサン』1145号より
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