【浮世絵を手がかりに巡る風景】日本橋駿河町、行人坂、万年橋──江戸の名所といえば、富士が見える場所
撮影・青木和義 文・嶌 陽子 構成・中條裕子
浮世絵好きで、絵師や摺師を題材にした作品をたびたび発表している小説家の梶よう子さん。そこで今回、浮世絵に描かれた風景に出合う散歩に出かけることに。案内役は浮世絵専門の美術館、太田記念美術館の学芸員である渡邉晃さんだ。
「江戸っ子の三大自慢といえば、江戸城、日本橋、そして富士山は信仰としての対象でもあり、特別な存在だったのでしょう」(梶さん)。
「浮世絵の中では実際に見えているより大きく描かれていることもあります」(渡邉さん)
葛飾北斎「冨嶽三十六景 江都駿河町三井見世略図」
日本橋駿河町(中央区日本橋室町)
江戸随一の繁華街からも、きれいな姿が拝めた
「建物の屋根が富士山の三角形と相似形をなしているのが、相似形好きな北斎らしい絵です」(渡邉さん)。三井越後屋をはじめ多くの商店が立ち並んでいた駿河町。町名の由来は、駿河の富士山を望めることから。現在の日本橋室町二丁目交差点、日本橋三越本店と三井本館の間の江戸桜通り。地下鉄銀座線「三越前」駅すぐ。
〈太田記念美術館〉 『葛飾北斎 冨嶽三十六景』展は、7月26日~8月24日。シリーズ全46図に加え、関連作品も展示する。 渋谷区神宮前1-10-10 TEL:050-5541-8600 (開)10時30分~17時30分 月曜休(8月11日は開館、12日休館)
歌川国貞(三代豊国)/二代 歌川広重「江戸自慢三十六興 目黒行人坂冨士」
行人坂(目黒区下目黒〜品川区上大崎)
目黒不動尊への参拝の行き帰りに見えた絶景
「高低差のある所が非常に多い目黒という土地ならではの景色です」(渡邉さん)。「近くにある目黒不動尊は当時多くの参詣客が訪れた場所。行き帰りにこの風景が見られたんでしょうね」(梶さん)。JR目黒駅西口から目黒雅叙園方面に通じる行人坂は都内でも有数の急勾配の坂。現在でも天候条件さえ整えば、富士山がきれいに見える。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 深川万年橋下」
万年橋(江東区常盤〜清澄)
美しいアーチを描く橋の下から名峰を望む
隅田川に合流する小名木川は、江戸の水運と交通の要。当時の〈万年橋〉も往来の人々で賑わった。「幾何学的な構図に富士山を配置するのは北斎の得意な表現法。橋の上の藍色の傘がワンポイントになっています」(渡邉さん)。現在の〈萬年橋〉は1930年に建てられた。都営大江戸線・半蔵門線「清澄白河」駅から徒歩5分。
『クロワッサン』1145号より
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