昔を知れば楽しさ2倍。浮世絵を手がかりに、小説家・梶よう子さんと太田記念美術館 上席学芸員・渡邉 晃さんが巡る風景
撮影・青木和義 文・嶌 陽子 構成・中條裕子
鍬形蕙斎「江戸名所の絵」
江戸一望
鳥の目になって描いた江戸の賑やかな街並み
津山藩のお抱え絵師だった鍬形蕙斎(くわがた・けいさい)が描いた鳥瞰図。現在の「東京スカイツリー天望デッキ」からの眺めと重なると評判に。手前を流れる隅田川、江戸城、浅草寺、不忍池(しのばずのいけ)、品川など、江戸の街並みが細かく描かれている。「高低差や街行く人々も描かれているのがすごい」(梶よう子さん)。「地図を見て、実際に江戸じゅうを歩いたうえで、想像力を働かせて描いたはず。卓越したリアリティです」(渡邉晃さん)
眼下に広がるのは、東京の街並み。隅田川、上野公園、皇居、晴れて空気が澄んでいれば、遠方に富士山も望める。現在、東京スカイツリーの展望台から見えるこの眺めと同じ風景を、200年以上前の浮世絵師が描いていたことをご存じだろうか。
「当時はもちろんこんなに高い建物なんてないのに、どうやってこの絵を描けたのか。“神の目”を持っていたとしか思えないです。江戸時代の人々は、浮世絵を通して私たちと同じ風景を見ていたんですね」
そう語るのは、浮世絵好きで、絵師や摺師(すりし)を題材にした作品をたびたび発表している小説家の梶よう子さん。そこで今回、浮世絵に描かれた風景に出合う散歩に出かけることに。案内役は浮世絵専門の美術館、太田記念美術館の学芸員である渡邉晃さんだ。
「今の東京には、浮世絵に描かれた風景を想起させる場所もまだ残っています。当時の様子を想像しながら歩いてみると楽しいですよ」
数百年前の人々は、この地で何を思い、どんな景色を見ていたのだろう。当時の面影を探しに、浮世絵の世界を訪ねてみよう。
梶さん・渡邉さんが訪れた場所はこちら
・三囲神社、湯島天満宮──庶民が深く馴染んだ、神社の景色
・日本橋駿河町、行人坂、万年橋──江戸の名所といえば、富士が見える場所
・桜田門、吉良邸、隠亡堀──当時話題となった、物語や事件の現場
『クロワッサン』1145号より
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