大離婚時代、女性が人生後半をより幸せに生きるには?カウンセラーの信田さよ子さんに聞いた。
撮影・イラストレーション・椎木彩子 文・長谷川未緒
信田さんからのアドバイス。人生後半、女性がより幸せに生きるために。
おもに家族の問題を扱ってきた信田さんのもとを訪れる相談者の悩みには、コロナ禍以降、ある傾向が見られるという。
「軽率に言えることではありませんが、4年にわたるコロナ禍は、家族にいろいろな影響を与えました。ひとことで言うと、話し合いができる家族はより仲良くなり、問題に蓋をしてきた家族は空中分解しました。ドメスティックバイオレンスが増え、離婚も促進されました」
緊急事態宣言が終了したあとも満足に外出できず、リモートワークも進み、家族が家にいる時間が増えた。夫の勝手さが身に沁み、これがずっと続くのかと悩む女性が少なくなかった。
「これまでは男性は外に居場所を作り、育児や家事はほぼ女性が引き受けてきました。コロナ禍で家にいる夫に少しくらい家事を手伝ってほしいと思っても、ゴミを出すことすらしない。食事作りや掃除の頻度が増え、事態の収束も見えなかった2020年、’21年は、絶望した中高年女性が自ら命を絶つケースが多かったのも事実です」
コロナはひところより落ち着いたものの、これからますます離婚率は上がるだろうと信田さん。また2026年から共同親権が導入されることで、非婚化、少子化も進むと予測している。
「子どものいる女性が離婚後に一番苦労するのが、元夫と子どもの面会交流なんです。顔も見たくないから離婚しているのに、連絡を取り合いたくなんてない。ですから今、面会交流の請負業も増えています」
すでに共同親権が導入されているアメリカやフランスでは、夫婦仲が完全に壊れる前に離婚する人が多い。ところが日本では、女性が限界まで我慢するケースがほとんど。子どもをひとり親にしたくない、子どもの姓を変えたくないといった理由に加え、一番大きいのは経済的な理由だろう。
「経済的に自立をしていない女性が離婚するのは宇宙に放り出されるようなものですが、今の若い世代は夫婦共働きがほとんどです。共同親権が導入されれば、欧米のように早い段階で離婚する若い夫婦が増えるでしょうし、子どもを持たない夫婦や結婚しない人もいっそう増えるはず。賛否が割れる中、法改正を急いだ政治家のせいで、家族制度の崩壊はかえって進むのではないでしょうか」
ひとりで生きることは怖くない。 シングル力を楽しく身につけよう。
大離婚時代を前に、どういう心持ちで生きていけば女性にとって明るい未来になるのだろうか。
「既婚の中高年女性は、夫の存在をどう位置付けるか。すでに多くがそうしているかもしれませんが、年金もあるし、ATMに近い存在と割り切るのも一案です。ある人は心の中で夫をジョンと呼び、ペットのように思えば腹も立たないと言っていました。そんな関係では虚しいと思う人もいるかもしれませんが、推しを作ればいいんですよ。胸がときめく瞬間は、心を豊かにし、生活にハリをもたせてくれます」
夫とどうしてもうまくいかなければ、場合によっては離婚の決断をすることも必要だ。それでなくても平均寿命を考えれば、女性は最後はひとりで生きていくことになる可能性が高い。
「全国的にひとり暮らしは増えているので、単独世帯向けの政策も増えるでしょうし、これからはシングルの時代です。ですからすでにシングルの人も既婚者も、ひとりで生きていく力、シングル力を身につけてほしいと思います。必要なのは、ある程度のお金です。年金と合わせてどのくらいの生活費が必要か、不安がらずに計画を立てましょう。体感的には住まい+月20万円あればそこそこ楽しく暮らせるはず」
お金のほかには、ネットワーク作りをしたり、コミュニティに属したりすることも、ひとりで生きていく力になる。ひとつに絞らず、趣味の仲間などと幾つかの場でつながろう。
「スポーツクラブに通うのもいいですよね。午前のプログラムに参加し、休憩室でおにぎりでも食べてみんなとにぎやかに過ごし、午後はプールでウォーキング。1日過ごせば、家の冷暖房費もかからずに済みますし、仲間もできます。何も恐れることはありません。人生の後半は、心身の健康を最優先に、夫に邪魔されることなく自由に楽しんで、自分本位に生きていきましょう!」
『クロワッサン』1123号より