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「フィリップ・パレーノ:この場所、あの空」ポーラ美術館【青野尚子のアート散歩】

文・青野尚子

アートの中に飛び込んで、異次元への旅をする。

フィリップ・パレーノは1964年生まれ、フランスを拠点にしているアーティスト。パリのブルス・ドゥ・コメルス(2022年)、ニューヨーク近代美術館(2019年)など世界の名だたる美術館で個展を開催している注目の作家だ。

箱根のポーラ美術館で開かれている「フィリップ・パレーノ:この場所、あの空」は日本最大規模の大型個展。初期作から初公開のインスタレーションまで、彼の多様な作品を紹介する。

会場には観客がその中に入り込んでしまうような作品が並ぶ。魚のバルーンが浮かぶ部屋では大きな窓から空中を泳ぐ魚の向こうに箱根の森が見える。別の部屋では天井にたくさんのバルーンが浮かんでいる。こちらは魚ではなく漫画のようなフキダシの形だ。一人一人の声は小さくても集まって大きなうねりを作り出す、そんなことも感じさせる。

映像作品《マリリン》ではマリリン・モンローが映画ロケのために数カ月滞在したニューヨークのホテルのスイートルームが映し出される。映像ではマリリンの声が響き、彼女の筆跡で手記が綴られていくのだが、それらは次第に二重になっていき、最後に意外な結末を迎える。

パレーノは自らの作品を「カメラのない映画」だという。彼の作品が形作る空間をさまよっていくうちに別の場所や空が現れる、そんな不思議な体験ができそうだ。

《私の部屋は金魚鉢》 2018年 展示風景:グロピウス・バウ、ベルリン、2018年 Courtesy of the artist; Pilar Corrias, London; Gladstone Gallery, New York and Brussels; Esther Schipper, Berlin/Paris/Seoul Photo @ Andrea Rossetti
《私の部屋は金魚鉢》 2018年 展示風景:グロピウス・バウ、ベルリン、2018年 Courtesy of the artist; Pilar Corrias, London; Gladstone Gallery, New York and Brussels; Esther Schipper, Berlin/Paris/Seoul Photo @ Andrea Rossetti

 

開催地の特性を活かして展覧会を構成するパレーノは、太陽を追跡する大型のミラー作品なども箱根の豊かな自然を背景に展示。1階の「アトリウム ギャラリー」では鈴木のぞみの個展が同時開催される。

「フィリップ・パレーノ:この場所、あの空」
開催中〜12月1日(日)
●ポーラ美術館
(神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285) 
TEL.0460・84・2111
9時〜17時
会期中無休 入館料一般2,200円ほか

  • 青野尚子 さん (あおの・なおこ)

    アート・建築関係のライター

    著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。

『クロワッサン』1119号より

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