鈴木淑子さんと土屋伸之さんが熱く語り合う「好きな競馬馬と思い出のレース」。
読めばきっと競馬場に行きたくなります。
撮影・青木和義 文・嶌 陽子 構成・堀越和幸 撮影協力・ラングスジャパン(https://www.rangsjapan.co.jp/)
競馬パーソナリティとして40年間活躍している鈴木淑子さんと、大の競馬ファンとして知られる漫才コンビ「ナイツ」の土屋伸之さんが、好きな競走馬や思い出のレースについて熱く語り合った。
鈴木淑子さん(以下、鈴木) 土屋さんはどんなきっかけで競馬が好きになられたのですか?
土屋伸之さん(以下、土屋) 高校生の時、友だちと「ダービースタリオン」っていう競馬ゲームをやっていて、そのうち本物の競馬場に行ってみたくなったんです。未成年だったから馬券は買えなかったけど、東京競馬場の敷地内にある競馬博物館で過去の名レースの映像を見て、馬たちが繰り広げるドラマに感動しちゃって。それがハマるきっかけでした。毎週のように競馬博物館に通ってましたね。
鈴木 今はネットで過去のレースが見られますが、昔はそういう場所でしか見られなかったですものね。
土屋 1977年の有馬記念の映像は10回くらい見ました。優勝したテンポイントは僕が生まれた年の春に亡くなったので、「自分はテンポイントの生まれ変わりだ」って勝手に思い込んでましたし(笑)。淑子さんが出ていた『スーパー競馬』もずっと見てましたよ。
鈴木 ありがとうございます。あの番組に巡り合うまでは競馬について全く知らなくて。でも初めての放送で競馬場に行ったら、「こんなに広くて緑が多いきれいな場所があるんだ!」「馬ってこんなに美しいんだ!」ってびっくりしたんです。レースも本当に迫力があってワクワクしましたし、その時初めて買った馬券も当たったり。もう、デビュー日にすっかりハマってしまいました(笑)。
土屋 僕が子どもの頃、競馬はおじさんがやるギャンブルっていうイメージだったんです。でも『スーパー競馬』を見ていたらいつも明るくニコニコしている淑子さんが出ていて、「こういう女性も競馬をやるんだ」って新鮮に思いました。僕みたいな高校生でも競技として競馬を楽しめる、そういうきっかけを作ってくれた気がします。
鈴木 うれしいです。私も番組を通じて競馬について学ぶのが楽しくて、毎週の放送が待ち遠しかったですね。
ものすごくしんどいはずなのに涼しい顔で走るところも魅力。
鈴木 土屋さんは馬の絵を描いてらして、それが本当にお上手ですよね。
土屋 これも高校生の時からですね。雑誌に載った好きな馬の写真を何時間も見ているうちに、ただ見ているだけではもったいないから絵を描こうと思って始めました。
鈴木 独学であれだけ美しい絵を描くのは素晴らしいと思います。最近は馬主や騎手からも絵の依頼が来るとか。
土屋 馬が大好きなので、描いている時間が一番楽しいです。競走馬は本当にマッチョで余計な脂肪が一切ない! 特に走っている時の胸筋の盛り上がりはすごいです。相当な運動量で、レース中はしんどいはずなのに、ものすごく涼しい顔をして走っている。そんなところも魅力的だなと思います。
鈴木 ちなみに初めて描いた馬は?
土屋 高校生の時、初めて応援したビワハイジっていう牝馬です。新馬戦っていう競走馬のデビュー戦で優勝して、その後も何度か勝っていたんですが、3歳になって出走したチューリップ賞(1996年)でエアグルーヴという馬に大差で負けてしまいました。
鈴木 エアグルーヴは私が大好きな馬。1997年の秋の天皇賞で、牝馬としては17年ぶりに天皇賞を勝ったんです。母親のダイナカールは最初に好きになった牝馬。母娘でGⅠ(最高峰のレース)のオークスを制覇したうえに、娘は母親が果たせなかった天皇賞まで制覇して大感激でした。
土屋 ほかに好きな馬というと?
鈴木 初恋の馬はミスターシービー。私が競馬番組デビューの日に弥生賞(1983年)を勝った馬です。馬券も当たり、感動して一生応援しよう!と思いました。当時はミスターシービーを追いかけながら競馬を学んでいった感じです。あと、ウオッカも大好き。
土屋 ウオッカは僕も好きです! さっき話したビワハイジは1996年に日本ダービーに挑戦するんですが、当時は牝馬がダービーに挑戦するなんて無謀なことだとされていて、やっぱり結果も全然だめだった。だからこそ、2007年に牝馬のウオッカがダービーで優勝した時は本当に感動しました。
鈴木 その日、私は東京競馬場にいましたが、紅一点のウオッカはパドックでも他の男馬たちを圧倒してましたね。まるで宝塚のトップスターのようで、「ウオッカ様」って感じでした。
土屋 破格の牝馬でしたよね。しかもダービーの後は連敗しちゃうんですが、1年後の安田記念で復活優勝する。その精神力の強さもすごいと思います。ずっと勝ち続ける馬より波がある馬、挫折を乗り越える馬が好きなんです。
鈴木 エアグルーヴやダイナカール、ウオッカのような頑張る牝馬は、私にとっては憧れであり、ないものねだり。すぐに弱音を吐いてしまう私は、彼女たちみたいになりたいって思います。
女性ジョッキーも増えて、 今後ますます盛り上がりそう。
鈴木 お互いの好きな馬について話してきましたけど、騎手となると?
土屋 たくさんいますが、やっぱり武豊さんはすごいなと思います。
鈴木 日本の競馬界を牽引してこられた存在ですよね。武さんは今55歳で競馬学校の3期生。その上に1期生の柴田善臣さんと、2期生の横山典弘さんがいらして、3人とも現役で活躍されてますが、まだまだ頑張ってほしい! 近年台頭してきている若い騎手たちとの対決も楽しみです。
土屋 横山さんの息子さんたちも騎手として活躍してますしね。長年見ていると馬も騎手も親子で活躍していることがあって、それも楽しいです。
鈴木 女性ジョッキーも増えてきて、JRA(日本中央競馬会)に所属している女性騎手は現在7人になりました。2016年にデビューした藤田菜七子さんの影響も大きいですね。
土屋 藤田さんが出てきた時は、久々の女性ジョッキーということですごく盛り上がりましたよね。華のあるジョッキーがいると注目されるから、元高校球児とか元芸人とか、ジョッキーの間口を広げてもっと多様化すればスターが出てくるかもしれないなあ。
鈴木 土屋さんが挑戦するっていうのはいかがですか(笑)。
土屋 いやあ、前に馬に乗ったことがあるんですが、ものすごく高くて怖かったです。これを操れる気は全くしなかったですね。ただ騎手はともかく、馬主気分は味わってますよ。「ペーパーオーナーゲーム」(POG)っていう仮想馬主ゲームを30年ほど前から友だちとやってるんです。
鈴木 全国にPOGのグループってものすごくたくさんありますよね。
土屋 皆で集まってデビュー前の馬のカタログを見ながらドラフト会議をしたりするのがめちゃくちゃ面白いんですよ。ちなみに僕が初めて仮想馬主になったファレノプシスっていう馬が桜花賞(1998年)で勝ったんです。うれしくて、それまで白黒で描いてた馬の絵を初めてカラーで描きました(笑)。
鈴木 競馬の楽しみ方って、馬券を買うことだけじゃないんですよね。
馬たちのドラマに涙を流すこともしょっちゅう。
土屋 これまでに感動したレース、涙したレースは?
鈴木 放送中に涙したことが一度だけあります。1990年、オグリキャップのラストランとなった有馬記念。「オグリはもう終わった」って皆が言う中で、私はオグリならきっとやってくれると信じていたら見事に勝利。「1着オグリキャップ」とアナウンスした瞬間、こみあげてきてしまって。司会者が泣くなんて絶対にしちゃいけないのにね。
土屋 僕はディープインパクトが凱旋門賞(フランスで行われる世界的に有名なレース)の後に出た2006年のジャパンカップ。凱旋門賞でまさかの3着、しかもその後失格になって。でも帰国後のジャパンカップで復活したのには泣いちゃいました。王者の風格とプライドを見せてくれましたね。
鈴木 国際レースのジャパンカップで世界中に証明してみせたんですよね。「これが本来の僕の力だ!」って。
土屋 凱旋門賞に挑戦してくれる馬って大好きなんですよ。オルフェーヴルも騎手を振り落としたりする破天荒な馬でしたが、皐月賞、日本ダービー、菊花賞の三冠(2011年)をとって最強馬といわれた後に、凱旋門賞に2回も挑戦したのがうれしくて。競馬ファンにとって凱旋門賞は憧れ。それに挑んで夢を見せてくれたことがありがたいです。
鈴木 ヨーロッパ最高峰の伝統あるレースですものね。
土屋 2012年の1回目の挑戦で、最後の直線で先頭に立った時、同じく競馬好きのカミさんのお父さんと抱き合いましたもん。義理の父と抱き合うのはその時が初めてでした(笑)。まさかその後に抜かれるとは……。
鈴木 まだまだ話は尽きませんね。競馬って土屋さんのように絵を描いたり、馬主気分を味わったり、私みたいに好きな馬をずっと追いかけたり、どんな楽しみ方もできるところが魅力。ジョッキーが格好いいとか、馬の顔が可愛いとか、何でもありなんです。自分の楽しみ方を見つけたら一生続けられます。読者の皆さんにもぜひ一度競馬場に足を運んでほしいですね。お子さんと遊べる場所もあるし、飲食店もいっぱいあります。それに何といっても生で見る馬はきれいですから。
土屋 どんな美魔女よりも美しい、究極の美を見られますよ!
『クロワッサン』1114号より