KAN「車は走る」、ポップ職人が織りなす遊び心あふれるオマージュの妙技。【高橋芳朗の暮らしのプレイリスト】
KAN「車は走る」
1990年に大ヒットした「愛は勝つ」で知られるシンガーソングライター、KANの死去から2ヶ月。桜井和寿(Mr.Children)、草野マサムネ(スピッツ)、aiko、平井堅、スキマスイッチなど、J-POPを代表する人気ミュージシャンに影響を与えてきた彼の功績を讃える声は今もなお途絶えることがありません。
超一級のメロディーメイカーであるKANは、ポップミュージックに対する深い造詣に基づいた遊び心あふれるオマージュの名手でもありました。これは自ら公言していることですが、代表曲の「愛は勝つ」にしても彼がリスペクトするビリー・ジョエルの「Uptown Girl」をモチーフにして作られています。
KANは洋楽のみならず、J-POPのオマージュにも積極的でした。Perfumeへの思い入れをたっぷり詰め込んだ「REGIKOSTAR~レジ子スターの刺激~」、岡村靖幸本人が憑依しているとしか思えない「おしえておくれ」、浜田省吾の歌世界を見事に再現した「エンドレス」など、凄みとおかしみがせめぎ合う妙技は職人芸の域に達しています。
そんななか語り草になっているのが、槇原敬之の楽曲を徹底的に分析して作り上げた「車は走る」。茶目っ気たっぷりな振る舞いから時折顔をのぞかせる、KANの批評眼の鋭さたるや。曲を聴いて爆笑したという槇原にとって、まさしくこれはミュージシャン冥利に尽きる体験だったのではないでしょうか。
『クロワッサン』1110号より