松任谷由実に見る、巨匠バカラックへの憧憬【高橋芳朗の暮らしのプレイリスト】
日本のポップスに見る巨匠バカラックの影。
20世紀のポピュラー音楽を代表する作曲家、バート・バカラックが2月8日に老衰のため亡くなりました。94歳でした。
映画『明日に向かって撃て!』の挿入歌「Raindrops Keep Fallin’ On My Head」など、1960~1970年代を中心に数々の名曲を残したバカラックが後進の音楽家に及ぼした影響には計り知れないものがありますが、もちろんそれは日本のポップスにおいても例外ではありません。
昭和歌謡界最高のヒットメーカー、筒美京平がバカラックを手本にしていたのはよく知られた話でしょう。彼のバカラックに対する探究心は、ビートルズの楽曲をバカラック調にアレンジした1971年発表のユニークな企画アルバム『バカラックがビートルズに逢った時』から垣間見ることができると思います。
日本ポップス史上屈指のメロディメーカー、松任谷由実もバカラック・チルドレンの一人。
彼女のバカラックへの憧憬は「ランチタイムが終わる頃」(1982年)や「白い服、白い靴」(1986年)、松田聖子に提供した「マドラス・チェックの恋人」(1982年)などから聴き取れますが、極めつけはカーペンターズ版「Close to You」のシャッフルリズムと「Walk On By」の舞台設定をモチーフにした「Walk On, Walk On By」(1995年)。
相棒ハル・デヴィッドの詞世界をも参照した徹底ぶりは、国産バカラック・オマージュの決定版と言えるでしょう。
『クロワッサン』1091号より