【馳星周さん・村山由佳さん対談】犬や猫と暮らすのは、人生の最良の喜び。
無言で寄り添うその体温を感じたり、姿や仕草、ふとした表情に、どんなに癒やされ、救われるか。
そんな大切な人生の伴侶だから少しでも長く、共に幸せな日々を送りたい。
「犬も猫も、人間が支えているつもりでも、実は支えられている」と語る2人に、まずは犬と猫と過ごす暮らしの醍醐味を聞いた。
撮影・青木和義 文・三浦天紗子
馳 星周さん
×
アイセくん(10歳)
マイテちゃん(7歳)
村山由佳さん
×
銀次くん(14歳)
青磁くん(13歳)
サスケくん(7歳)
楓ちゃん(7歳)
絹糸ちゃん(3歳)
朔ちゃん(2歳)
フツカくん(2歳)
犬や猫と暮らすのは、人生の最良の喜び。
20代の頃から大型犬を飼い始め、同じ犬種で、現在4、5代目と暮らす馳星周さん。17年、苦楽を共にした最愛の猫もみじとの別れを描いた『猫がいなけりゃ息もできない』(集英社文庫)などの著作があり、現在は7匹の猫を飼う村山由佳さん。犬好き、猫好き代表の2人に、共に暮らす喜びや人生の変化を語ってもらった。
村山由佳さん(以下、村山) こうして対談するのは2回目ですよね。
馳星周さん(以下、馳) 前はあれか、『軽井沢ヴィネット』。
村山 テーマは確か、軽井沢暮らし。馳さんは犬のために新宿ゴールデン街ライフを捨てて越してきたのよね。
馳 今年で15年……いや16年かな。見てのとおり、軽井沢が似合うキャラじゃないし(笑)、僕自身、まさか住むことになるとは思わなかった。
村山 がんになってしまった初代のマージのためだったんでしょ。
馳 そう。もう2代目のワルテルもいたし、東京暮らしに踏ん切りをつけて。いまは基本はここで、夏の間だけ故郷の浦河に連れていっています。
村山 馳さんがバーニーズ・マウンテンドッグ(以下、バーニーズ)ばかりと付き合うのはどうして?
馳 同じ犬種でも、人格ならぬ「犬格」が違うんですよ。新しい犬種を飼って試行錯誤するより、慣れ親しんだ犬種の飼い主として自分が成長していけば、犬をもっと幸せにしてあげられる。
犬は、群れることが楽しい。猫は、個々の生きもの。
村山 バーニーズのいいところは?
馳 やっぱり表情が豊かなところ。アイセとマイテも個性が全然違うし、コンビで飼うと、その組み合わせでもずいぶん変わります。アイセはぬろーんとした性質の犬なんですが、なぜかマイテにも伝播している。ワルテルと3代目のソーラは軍隊の上官と下士官みたいでした。「やれ」 「はい」の関係。
村山 2頭でいるのが本当に幸せそう。うちは7匹いるけれど、そもそも猫は群れずに個々で暮らす生きもので、人の都合に合わせて折り合ってくれている。うちも2匹はちょっとハミダシ者なんですよね。
馳 猫の魅力を端的に言うと?
村山 大人の付き合いができることかな。お絹(絹糸の愛称)のようにとんでもなく甘えん坊の猫もいますが、基本的にはつかず離れず。
だから子猫のころはもちろんかわいいですが、私は1歳以上になってからのほうが好きです。お互いのペースで関わり合えるから。
あと、つらいことがあったとき、猫は敏感にこちらの気持ちを察知して、心の穴ぼこにぴったりの大きさで丸まって寄り添ってくれるんですよね。これまで、どんなに救われたか知れません。
馳 村山さんは、犬も飼ったことありますよね?
村山 鴨川で農場暮らしをしていたころに。いま犬は無理、怠惰な人間に犬は無理(笑)。毎朝早起きして散歩に連れていって。頭が下がりますもん。
馳 それは犬を飼う人間の責任だからね。大型犬を2頭連れていると、「しつけや散歩が大変でしょう」と言われるの。でもバーニーズは使役犬なのでそれほど活動量はいらないんですよ。
村山 うちに来てもすごくお行儀いいものね。だけど馳さん、最初のマージのときは「地面にひっくり返して鼻をかじってしつけた」って。
馳 村山さんも銀次のお尻を噛んでしつけたんでしょ?(笑) マージのときは初めて飼う大型犬だったし、まだ東京にいたので、こちらもかなり厳しくしなきゃとピリピリしてました。でも犬は飼い主である自分がボスになればちゃんと従ってくれるんですよね。それがわかった。人間の3歳児より断然、聞きわけがいいしね。
村山 猫もそう、3歳児よりは!(笑)
馳 もちろん犬を飼うって、そうそう軽い気持ちではしてほしくないです。ヨーロッパの街には犬にぐいぐいリードを引っ張られてる人間なんかいないわけです。結局、犬というものに対する理解の深さや文化の違い。かわいいだけじゃないので。
村山 病気もするしね。でも私もサスケのインシュリン注射のためなら早起きできる。だって家族ですから。
馳 忘れてほしくないのは、犬は人間を頼りにしているのではなくて、群れのボスに頼るんです。だから、犬との暮らしでは「群れであることの楽しさ、うれしさ、幸せ」があります。人と犬とは、ボスになって面倒を見る代わりに愛をもらえるという関係だと思う。
村山 なるほど。猫の場合は逆かな。こちらがお猫様の下僕になってお仕えするのが喜びなので(笑)。留守にもできませんけど、全然苦にならないくらい幸せ。馳さんは、犬と暮らすことで生き方まで変わったんでしょう?
馳 夜型だったのが完全な朝型になったし、健康的になりましたよ。
バーニーズはがんの多い犬種で、比較的短命なんです。マージのときは抗がん剤とか化学療法に頼ったのね。それは犬には可哀想なことをしたかなと思い直して、ワルテルのときは自然療法の獣医さんを見つけてケアしました。
それからずっと食事もマクロビオティック。犬のご飯を作るついでに人間も一緒に食べればいいじゃんと。そうしたら僕も妻も半年で10kgくらい痩せた!
村山 飼うなら人間のほうが変わるべきなんですよね。今、コロナで家にいる時間が長いからと犬や猫を飼う人が増えているらしいけど、「思ってたのと違う」とか「糞尿が臭い」とか……。
馳 飼いきれなくなって処分とか、命をなんだと思っているんだ、ふざけんなと思うでしょう?
村山 まだ実用化には至っていないのだけれど、いま猫の腎臓の特効薬が開発されつつあって、それができれば猫は30年生きることもできるようになるらしいんです。そのくらい長期間一緒に過ごすのを覚悟してほしい。
ともに過ごす無二の幸福。 ペットロスに怯えるなかれ。
馳 飼う以上はペットロス問題はついてまわりますよね。僕もマージを亡くしたときは、毎朝起きればさめざめ泣いて、どうしようもなかった。けれど、妻がワルテルを連れてきてくれたんですね。そうしたら彼のために散歩に行かなくちゃ、エサを用意しなくちゃと。そういう犬のルーティンがあることがどれだけ慰めになったことか。
村山 犬や猫はどうしても先に逝くけど、残していくほうが心残りかも。
馳 別れは哀しいし、さみしいし、つらいけど、それ以上に一緒に暮らしたときは楽しかったじゃない、幸せだったでしょと言いたい。僕にとっては、一緒に生きていく楽しさのほうが上ですね。
村山 何匹も看取ると、死は怖がらなくていいものなんだなとわかってくるんです。怖いのは勝手に想像している死でしかない。猫や犬は見事に逝く。そのたびに本当に大きいことを教えてもらうなあと感動します。
馳 だいたいの生きものは瞬間瞬間を生きていて、人間みたいに過去に囚われたり未来を恐れたりしないんです。むしろ彼らを見習えば、人間はもっと幸せになれる気がする。あとね、犬を失った哀しみは犬でしか、猫を失った哀しみは猫でしか癒やせない。
村山 人間ではダメですよね。私も、もみじを失ったときはおかしくなりかけたけれど、ほかの子たちの存在にどれだけ支えてもらったか知れません。
馳 大型犬は介護するにも力が必要で、僕も年齢を考えれば次の6代目までかなと考えつつ、新しい犬を迎えるたびに「この子にはもっと幸せな一生を送らせてあげたい」と思うわけです。
村山 苦労を上回る喜びがあるよね。
馳 飼う前からあれこれ不安に思ってもしかたがない。前もって不測の事態を予想してても、飼えば絶対にそれ以上のことが普通に起こるから(笑)。
村山 ほんとそう。だから愛し抜く覚悟さえあるならまず飼ってしまえと。運命の猫や犬と出会ったら、彼らを全力で幸せにしてほしい。引き換えに10〜20年もの得がたい幸福がもたらされることを、我々が保証します(笑)。
『クロワッサン』1056号より
広告